KANA

アマデウス ディレクターズ・カットのKANAのレビュー・感想・評価

5.0

名作再鑑賞シリーズ

この映画との出会いは高校の音楽の授業で部分的に見せられた時。
幼少から習っていたエレクトーンではポピュラーミュージックを弾くことがほとんどで、クラシックにはあまり興味が湧かなかったのだけど、それ以来一気にモーツァルトの虜に。
一度ハマったら凝り性の私は彼についてのCDや本を買い漁ったりしてとことんリサーチした。
音楽はもちろん、人物や時代背景についても。
大英博物館(大英図書館)で直筆スコアを見た時はなかなかその場から立ち去れないくらい感動した。
本作も今まで何回観たんだろう。
この度、改めてディレクターズ・カットのBlu-rayを買ったので久々に鑑賞。

誰もが知る、音楽史に燦然と輝く天才作曲家、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。
劇作家ピーター・シェイファーはモーツァルトの暗殺説を元に、"凡庸な男の天才への憧れと嫉妬"という視点で戯曲を作り上げた。
その映画化でメガフォンをとったのは『カッコーの巣の上で』のミロス・ファアマン。
本作でもたっぷりのユーモアと皮肉を込めて、天才モーツァルトと凡才アントニオ・サリエリの葛藤を見事に表現。

何を置いてもまず音楽。
劇中、絢爛たる名曲の数々に酔いしれる。
オープニングからして交響曲第25番第1楽章で効果的に不穏さを煽る。
宮廷にて、コンスタンツェと戯れていたモーツァルトが急いで演奏の場に走ってくる時の『グラン・パルティータ』のとろけてしまいそうな甘美さ。さっきまでの下品でお子ちゃまな態度とのギャップを見せつけられる。
『フィガロの結婚』『ドン・ジョバンニ』『魔笛』など、代表的オペラの上演シーンは映画の中であっても本物を観劇してるみたいな高揚感で、とっても贅沢な気持ちになる。
モーツァルトが死んでからは冒頭の不穏を受け継ぐように『レクイエム』で悲壮感MAXに盛り上げ、
エンディング&クレジットでは一転、ピアノ協奏曲第20番ニ短調第2楽章が幻想的にゆったり優しく流れ続け、うっとりと余韻に浸らせる…
楽曲そのものはもちろんだけど、緩急計算し尽くした選曲センスに痺れる。

モーツァルトに愛憎の念を抱きながらも品と節度を保ち、気の弱さから大胆な態度をとることができないサリエリを演じたF・マーリー・エイブラハム。
彼の凡人の機微の表現が絶妙に巧くて、観る者は感情移入せずにはいられなくなる。
敵意剥き出しじゃなくて、モーツァルトの病床で『レクイエム』創作の作業を手伝う様子なんかは愛も大いに感じる。

幼稚で下品で女性にだらしなく、傲慢…ただし音楽の才能は神がかり的なモーツァルトを演じたトム・ハルス。
彼のモーツァルトはあの無邪気な甲高い笑い方が強烈なインパクトを残す。
ファンキーなオペラの指揮パフォーマンス最高!
ヨーゼフ2世の前でサリエリ作のマーチをいとも簡単に豊かにアレンジしてしまう姿最高!
後半以降、誰も雇ってくれなくなってからは少しずつ人間らしい悲哀の色も濃くなり、絶妙な落ちぶれ方。

メイキングを観ての感想もいろいろあるけど止まらなくなるので割愛。笑

とにかく、18世紀の意匠を完璧に再現した美術、オペラ、嫉妬するサリエリ目線の脚本…まさに一級のエンタメ作品。
言語は割り切ってAmericanなのも含めて大好き!
KANA

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