あ

バージニア・ウルフなんかこわくないのあのレビュー・感想・評価

5.0
なるほど...エドワード・ヤンはこういう罵り合いがやりたかったのか...?

子なしの熟年夫婦に、若いカップルという要素は、「恐怖分子」の壁にかかった本作のポスターと不思議な関連を思わせます。どちらも不妊と夫婦の倦怠がテーマとなっていますね。

しかし本作の方が明らかに一枚上手なのは、不妊によって冷え切った夫婦関係から仕事に逃げた夫が、その馬鹿馬鹿しさからもう一度存在しない子供=夫婦の禍根を殺しにくる大胆さにあると思います。その点「恐怖分子」はお互い仕事と恋愛に逃げて破滅で終わってしまったので、ラストの虚実ない混ぜな世界観のインパクトは強かったものの、今一つ展開が足らないところがあったのかとも思わされます。

また、本作が本当に面白くなってくるのは、一方的にバカにされ続けるジョージが、オモチャのライフルを持ってきたり、若い夫婦の嫁を振り回したりすることが、段々冗談に見えなくなってくるところです。本当に人を殺すのではないかという、見事な殺気に満ちた演出と演技です。

何故あの若い夫婦を帰したらいけないのか?その訳を、架空の息子殺しという結末が知らせる時、マーサがバカにしていたジョージの小説が現実味を帯び、玄関の鐘がマーサの空想を決定づけていたことに気づいて驚きました。

子供がいなければ夫婦が成立しない。そうした空想の中で踊るエリザベス・テイラーの哀れな罵倒が素晴らしかったですし、その空想を壊して、二人だけの愛をもう一度過去の自分たちのような夫婦を使って実現しようとし、そのためには多少の屈辱も飲み込んだ、リチャード・バードンの懐の大きい演技も素晴らしかったです。

あとやっぱりマイク・ニコルズは夜がいいなと思いました。「卒業」で、幼馴染の母にベンジャミンが誘惑されたのも夜だったと思いますが、浮世離れしたスリル溢れる世界を夜の暗闇の中に作るセンスが卓越しています。
あ