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三人の妻への手紙のSPNminacoのレビュー・感想・評価

三人の妻への手紙(1949年製作の映画)
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ピクニックへ出かける3人の妻の元に、「3人のうち誰かの夫と駆け落ちします」との手紙が届く。差出人アディとは?相手は誰?と謎を提起して、そこから夫婦3組に広がる波紋。3人を翻弄するアディは、姿を見せない語り手だ。複数視点と時系列を入れ替えながらディティールを積み重ねる脚本構成が、同じくジョセフ・L・マンキウィッツの女性映画『イヴの総て』と似て面白い。
夫に引け目を感じるデボラ、脚本家の仕事で家計を支えるリタ、玉の輿だが関係が冷え切ったローラメイ。不安を抱えた3人にとってアディは何もかも完璧に見え、コンプレックスを募らせる存在。だが彼女の実像を誰も知らない。そして、妻の思いを夫は知らない。能天気なカーク・ダグラス、無愛想なポール・ダグラスはまだマシとして、無関心なデボラの夫は結構ヒドいと思う。
皮肉たっぷりの会話、妻同士や毒舌メイド(最高)とローラメイの母の友情など、現実的で媚びない女性像は女性視点でとても丁寧に描かれてる。子供が読むお伽噺やラジオのソープオペラが語る幻想と、こんなはずじゃなかった現実の対比がとてもシニカルだ。CMみたいに幸せな結婚生活は所詮幻想。けど、完璧なアディなど実はいないように完璧な夫婦もない…と、結果的には平和な落とし所に着地する。
動き出した船から猜疑心に駆られた妻たちが見つめる公衆電話のショットが、引き返せない結婚を暗示するようで印象的。独身アディだけが自由なトリックスターで、だからこそやっぱり人を惹きつける(でも手に入らない)魅力があるのだとわかる。クールで洒落た声の演技がまた絶妙に良かった。
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