緋里阿純

ニューヨーク東8番街の奇跡の緋里阿純のレビュー・感想・評価

3.5
スティーヴン・スピルバーグ制作総指揮、マシュー・ロビンス監督によるSFコメディー。

1980年代、かつては繁栄したニューヨークの東8番街も、今はすっかり再開発の波が押し寄せ瓦礫の山。いよいよ残すは主人公達の住むボロアパートのみという状況。建設会社とそれに雇われたチンピラによる強引な立ち退き命令によって疲弊しきった老夫婦の元に、ある夜、空から不思議な小型円盤型宇宙船がやって来る。
老夫婦のフランクとフェイを演じたヒューム・クローニンとジェシカ・タンディが、実生活でも夫婦だというから面白い。

真夜中に円盤型宇宙船がやって来た時は、中に極小サイズの宇宙人でも乗っているのかと思ったが、まさかそれ自体が特殊な金属生命体だとは。
両サイドに配置されたライトの部分が目の役割を果たしており、瞬きもする様子が非常に愛嬌があり、1発で好感が持てるのは流石。後に産まれる三つ子の赤ちゃん宇宙船も含め、皆仕草や行動が可愛らしく、見ていて思わず笑みが溢れる。ダイナーの仕事を手伝うシーンが特にお気に入り。

また、ボロアパートの住人達と宇宙船一家とが、最後まで人語を介したコミュニケーションで意思疎通を図らない所に好感が持てる。
あくまで住人達が一方的に話しかけるのみであり、宇宙船一家はそれを理解し実行するのみという、異種間交流として自然な形が良い。

とはいえ、ストーリーやキャラクター描写には消化不良や掘り下げ不足な印象も強い。
フェイの様子が最初は認知症患者かと思わせておいて、実は息子の事故死を受け入れられないでいるという描き方が良かっただけに、他の登場人物達にもそういった掘り下げが欲しかった。
特に、引退した寡黙なボクサーである大男のハリーが、何故喋らなくなってしまったのかが一切描かれていないのは疑問。喋らないせいで住人達と意思疎通が図れず、死産したかに見えた三つ子の末っ子を助ける為、皆を振り切ってそれを部屋に持ち帰る描写は、見方によってはホラーにさえ映る。
また、チンピラ役のカルロスにラストでキチンとした更生等のセカンドチャンスが与えられなかったのは残念。父親(恐らくは両親)の愛情を知らず、それ故に道を外れてしまい孤独。しかし、根は優しい人物。アパートの火事の原因を作った一員とはいえ、取り残されたフェイを助けようと機転を効かせたりもした。だからこそ、てっきり最後は彼もアパートの住人として仲間に入るのかと期待したのだが、どうにも煮え切らないまま終わってしまったのは味気ないし勿体無い。

クライマックスで、全焼したアパートを宇宙船一家が仲間を連れて直しにやって来るという描写も、規模がアパート全体故に数が必要なのは分かるが、出来ればアパートの住人達と交流した一家のみの方がドラマチックであったように思う。

全体的に緩く、粗も目立つ印象があり、ファミリー向け映画としても平凡な域を出ていない印象があるが、宇宙船一家の描写がとにかく可愛く愛おしいので、若干の加点によりこの点数といったところ。
緋里阿純

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