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パラダイス・ナウのpanpieのレビュー・感想・評価

パラダイス・ナウ(2005年製作の映画)
4.2
サイードとハーレドは占領下で苦しんでいるパレスチナの若者だ。
ヨルダン川西岸地区のナブルスに住む。
自動車整備工場で働いている。
二人は占領を続けるイスラエルに自爆テロで報復しようと思っている。
それ以外はごく普通の若者だ。
そこへ英雄の娘スーハが修理に出した車を受け取りに来る。
サイードとスーハの出会い。
結局検問が閉鎖された為明日取りに来る事に。
二人は約束して別れる。

明日テルアビブでイスラエルに報復を決行する事になり前から希望していたサイードとハーレドに望み通り二人一緒で依頼が来た。
サイードは「神のご意思ならば」と快諾する。
明日急遽決行される事になった為サイードは朝の4時にスーハに車のキーをこっそり届けに行くが目覚めたスーハが出てきて二人は部屋で話す事に。
そこでイスラエルの占領が続く限り抵抗するというサイードに対して抵抗にも色んな形があると言うスーハ。
二人の会話は結局平行線でサイードの心には響かない。

次の日。
二人は決行前髭を剃り髪を短く切り体には爆弾をテープでぐるぐる巻きに固定され黒いスーツに身を包む。
特にサイードはくるくる巻いているクセ毛で髭が濃く真っ黒だった為髭を剃り髪を短くしただけなのに別人の様だった。
優しげだった顔つきが精悍で目つきの鋭い若者に変わった。
いよいよ決行だ!
その時に思いもよらない事が起こる!


フォローしているまさなつさんからのオススメいただいた今作。
「オマールの壁」のハニ・アブ・アサド監督作品だ。
TSUTAYAで旧作を探すのが下手で1時間は軽く超えてしまうのだが今作は運良く見つける事が出来た。
まさなつさん教えていただきありがとうございました!(*^^*)


ISを思わせる国旗をバックに片手に銃を持ちサイードとハーレドの犯行声明を読み上げる姿をビデオに記録するシーンがあるがイスラエルと最早妥協点を見出せずイスラエルがユダヤ教なのに対しイスラム教を唱え死を恐れず肉体が唯一の武器といいこの体で終わりなき占領と戦うと声高に叫ぶ。

最初は二人とも意気揚々として集合場所へ向かうが敵の待ち伏せで散り散りに逃げ逸れてしまう。
一人になって考えた末のそれぞれの決断。
フランスで生まれモロッコで育ったと言うスーハに説得されて感化されたのは私の予想外の方の人物だった。

監督が来日インタビューで語ったところによると神風特攻隊も参考にしたと言う。
確かに自分の体ごと敵を巻き添えにして殺すと言う発想は神風特攻隊に通ずる同じ考えだと思った。

サイードは密告者を父に持つ。
父は密告者として処刑された。
子供の頃から非難され家族が苦しんで難民キャンプで育ってきた。
その気持ちが一層駆り立てたのかもしれない。
家族が自分の決行後に報復を受けないように街中に殉教者としてポスターを貼って欲しいと懇願していたシーンがあって密告者扱いされる事を極度に恐れていて「オマールの壁」を思い出した。
「オマールの壁」の様な恋愛色の濃い作品ではなく純粋に自爆テロへ向かう若者の葛藤を描いていて作品全体が緊張感に溢れている。

「オマールの壁」は壁周辺の都市の様子しか分からなかったが今作ではイスラエルのテルアビブ市の様子も分かった。
大都市で近代的なビル(ホテル?)が立ち並びビル全体に描かれたSAMSUNGの広告もデカデカと出ているしヤシの木が街並みに植えられていてビーチにはビキニ姿の女性も歩いている。
まるでヨーロッパの都市の様だしビーチの様子はハワイの様にも見える。

そして嬉しい発見があった。
スーハ役が「灼熱の魂」のナワル役のルブナ・アザバルだったのだ。
ナワルの時より若々しく美しい。
でもナワルを思い出すことは「灼熱の魂」をも思い出させまたあの衝撃を噛み締めた。
先日ヴィルヌーヴ監督の短編を観て思い出していた所で今作をレビューする為に何度か観てみて観た事があると思い調べてみたらナワルだったのだ。
何だか早く「メッセージ」を観に行け!と囁かれているよう。笑
勝手に因縁めいたものを感じています。笑

ラスト近くで
「他人を巻き添えに死んでも
何も変わらない」
と言うセリフが出て来るが監督からのメッセージなんだと私は受け取ったが作中の彼には響かなかったと言う事なのか。
自爆テロしか方法はないと今迄信じて来たのに他の方法がある等今更言われても変えられないのだろう。

アサド監督は今作を観ている争いのない平和な国に住んでいる人々にもパレスチナの人々にもイスラエルの人々にもこの葛藤を投げかけ考えさせる。
目には目をは繰り返される復讐劇であって何も生まない。
街の様子を映す時にとても綺麗な青空が広がっていた。
いつの日かこの地に平和が訪れることを願ってやまない。
そして早く「メッセージ」を観たいと願ってやまない私だった。笑
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