Qちゃん

地獄の黙示録のQちゃんのレビュー・感想・評価

地獄の黙示録(1979年製作の映画)
4.6
ベトナム戦争が泥沼化して数年。米軍ウィラード大尉は、同軍の命に背いて独自に山林に潜んで活動するカーツ大佐の暗殺を命じられる。かつてエリート街道まっしぐらだったカーツ大佐に何があったのか、疑念を抱きながらウィラード大尉はカーツ大佐捜索を進める。。

ファイナルカット版公開に備えて、やっと、やっと観た。実は初めて観た。

なんて凄いものを観てしまったんだ。。
個人的には、パラサイトどころの騒ぎじゃなかった。

予想と反して、これはいわゆる戦争映画ではなかった。
直接的な戦闘描写はほとんどない。

ここに描かれているのは、泥沼のベトナム戦争がもたらした狂気そのもの。
戦場に充満する、個人を揺さぶる狂気。

生身の人間を攻撃すること、人が死ぬこと、攻撃されること。全てに麻痺して、モラルも常識も吹き飛んだ、人のなれの果ての集まり。

ただでさえ理性を失う戦場に加えて、ベトナム戦争特有の事情が、その狂気を加速させる。

東西冷戦下のアメリカが、ドミノ理論実現の恐怖から手を出し、結果として第二次世界大戦以上の年月を他国の内戦に費やす羽目になったベトナム戦争。

疲弊し切った不毛の戦場で、従来の戦争とは全く違った敵・戦術・環境に翻弄される米軍兵士たち。

それと分かる公的な軍隊ではなく、民間人を装って攻撃してくるベトコンへの疑心暗鬼、
慣れない密林地形での奇襲、
人だけでない自然界の脅威、人食い虎や毒蛇やらの被害も馬鹿にならない中で、
自国を守る大義すらない異国の地での一兵士たちは、ただただ神経を擦り減らし、心が摩耗して、様々な方面で常軌を逸した言動を取り始める。

一見冷静沈着で知的に見えるウィラード大尉も、冒頭でその異常さと戦争後遺症の影響を色濃く見せている。カーツ大佐捜索の道中でも。

ウィラード大尉が川を上って奥地に進むほど、近づきつつあるカーツ大佐の心のように、闇が深まっていく。まるで夜見る悪夢のような、現実とは思えない、この世の果てのような戦地が待っている。明らかにスタジオ内で撮ったのが分かる作り物感のある塹壕は幻想的ですらあり、それこそ黙示録的な人類の終焉を感じさせる。

でも本当の闇は、そんな物をも凌駕して更に奥に存在した。

最深淵に辿り着いてしまったのは、狂気の戦場で、その有能さ故に麻痺しきれなかった者。彼らは全ての狂気と茶番と自身の苦悩に耐えられず、逆説的に更に深みに墜ちる。

脚本すごい。これベトナム戦争下だったら上映禁止ものだね。
そしてその異色のストーリーを彩る、独特でスタイリッシュで鳥肌モノの音楽の使い方!
恐ろしいほど鮮烈な、闇と光の使い方!
印象的なセリフ!(数えきれないほどあるけど、「朝のナパームの臭いは格別だ」のインパクトはヤバいね。地獄の業火になんて言い草。。)
それらセリフとカットの見せ方!
あの演出!!

なんでこれ各種賞レースで作品賞獲ってないの?アカデミー賞作品賞は??
…この年の作品賞、「クレイマー、クレイマー」か。。やべ、まだ観てないからなんも言えねぇ。。汗

追記: 後日「クレイマー、クレイマー」観たら、個人的には地獄の黙示録の圧勝でした。
Qちゃん

Qちゃん