チッコーネ

キッズ・オールライトのチッコーネのレビュー・感想・評価

キッズ・オールライト(2010年製作の映画)
3.5
「新しい家族の在り方」の模索は、2000年代ゲイ映画の主要テーマのひとつであった。
そこでは主に「前例のない中で、これからどうやって家族を作っていくか」が語られていたが、
本作ではあらかじめ、主人公のレズビアン・カップルに18年の子育てキャリアが与えられている。
つまり新しいかたちの家族が誕生して、その後どうなったかを描こうとしているのだ。
マイノリティの権利闘争が、現実として最も活発に行われているアメリカならではの、
一歩進んだゲイ映画であり、ファミリー映画でもあるというわけ。

面白いのは、従来映画の中でゲイとストレートに与えられてきたそれぞれの役割が、本作の中では反転していること。
家族を大切にして生きているのはゲイの方で、ストレートは自由気ままに生きていくために、孤独の恐怖から目を逸らしている。

ゲイの僕は当然心情的に、レズビアン・カップルに加担した。
ジュリアン・ムーアとマーク・ラファロの濡れ場はたまらなくイライラと来たのだが、
さて現実に自分の生き方はどうなのだろう、と考えてしまう。

僕の人生の中に”家族を作る”という選択肢は存在していない。
もちろんアメリカでさえ、まだまだ大半のゲイは僕と同様の考えであるはずだ。

鑑賞後はとりあえず、ストレートの男性が家族へ迎え入れられない展開に溜飲を下げたのだが、
その惨めな姿はほかならぬ、自分自身の末路なのかもしれない。
さまざまな労苦と責任に背を向け、享楽的な人生を送ったからには、虚無や孤独に直面することを、避けられないのだ。
そこにゲイ/ストレートという、セクシュアリティの差はないのである。
ほかならぬゲイに向けても、「いま一度ライフスタイルの再考を」と促す監督の意図が、本作には充分に込められている気がしてならなかった。

賞レースでは主にアネット・ベニングへの評価が集中したようだが、
個人的には今回も、ゲイがらみの作品を選んだジュリアン・ムーアに好感を持った。
記憶に新しいところでは『シングルマン』での助演、
さらにトッド・ヘインズ(『エデンより彼方に』『ケミカル・シンドローム』)や、
トム・クレイン(『美しすぎる母』)など、ニュークイアシネマ系監督のミューズとして、映画好きのゲイには無視できない存在である。
角度によっては希代のゲイアイコン、マドンナにも似ているしね~★

(鑑賞当時のブログから転載)