たく

ディープエンド・オブ・オーシャンのたくのレビュー・感想・評価

3.8
これは泣けた。アメリカのある家族で起きた幼児誘拐事件とその後の顛末を描いてて、家族の誰も悪くないのにそれぞれ葛藤に苦しむ姿が観てて辛かったね。生みの親と育ての親の問題は最近観たのだと「最愛の子」など多くの作品で描かれるテーマで、取り戻せば済むという単純な話じゃないところが人の心の難しさ。ミシェル・ファイファーが、息子の行方不明にうろたえる弱い姿からその後に心の強さを得た逞しさまでを演じ切ってて見事だった。

1988年のウィスコンシン州で夫のパットと妻のベス、3人の子どもが平和に暮らす中、ある日ベスが子どもたちを連れて参加した高校の同窓会で次男のベンが行方不明となる。冒頭でかくれんぼをする兄のヴィンセントと弟のベンのシーンで、ベンが隠れたチェストの鍵がかかって出られなくなるのが後の行方不明の暗示になってる感じで上手いと思った。ここから地元警察の協力の下で捜査が行われていくんだけど、手掛かりのないまま9年経過する。いっこうに進まぬ捜査のくだりでベスが心を病んでいき、ヴィンセントが陰ながら母親をフォローするところに彼の孤独を感じて何とも泣けるんだよね。

3歳で行方不明になったベンが9年後に再会した家族を覚えてないのは当然で、彼にとっての幸せが生みの親と暮らすことなのか育ての親と暮らすことなのかという、何ともやりきれない展開となる。かつて心を病んだベスがカメラマンの職を再び得ることで強い女性になっており、それが最後に賢明な選択をすることにつながっていくんだけど、パットが彼女の成長を全く感じ取れてないのが歯がゆかった。そして何よりベンの誘拐に責任を感じてるヴィンセントが非行に走るのが辛いし、ベンが好きだったぬいぐるみを大事に保管してるあたりも泣けて、本作の真の主役は彼じゃないかと思った。終盤のくだりが実に素晴らしく、冒頭のかくれんぼが伏線になってたのが何とも見事。
たく

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