pika

糧なき土地のpikaのレビュー・感想・評価

糧なき土地(1932年製作の映画)
4.0
ブニュエルによる唯一のドキュメンタリー映画。

序盤は同じ地方でも裕福な村から映し始めていて、ドキュメンタリーながらも狙ってやってんのかと言いたくなるくらいに映像の選別とナレーション内容のセンスがシュールなので、貧困ながらも独特な映像と淡々と余計なことまでベラベラ話すナレーションのギャップにちょっと笑ってしまう。
ひょっとしてこれは奇妙で悲惨な現実を目の当たりにした我々の、偽善的な同情心に隠されている無意識下の本音を敢えてナレーションで皮肉り、それに対して「おい、そんなこと言うな!」とツッコミを入れさせることで揶揄しているのだろうか!?

中盤「これからが本番です」というナレーションと共に映される数々の映像は「なんでこんなところに住んでるんだよぉ」と半泣きになるくらいに悲惨。
「糧なき土地」の題名そのままな糧のなさが生む、飢えと不衛生さと貧困、さらには隔絶された環境による近親婚など、老婆に見える若い女性や少年に見える老人、死ぬ間際の少女に死んだ赤ん坊、蜂に襲われている最中のロバや崖からマジで転落死している最中のヤギ。
二カ月の滞在で衝撃的な映像撮れすぎ、って思っちゃうけどこれが日常なんだろうという重さ。
基本的に村人たちは常に誰か病人で、夏前はほぼ全員病人って。。

そしてラストのテロップ。映画の力で社会や政治を変えてやるという溢れんばかりの気迫が滲み出ていて、人々が気づき耳を傾け、少しでも彼らに手を差し伸べれば彼らの悲惨な状態を変えることができるんだ、というブニュエルの強烈な思いが垣間見える。
本物を撮って並べただけの平坦なリアリズムにはならず、ある種芸術的ですらある映像の構築は、シュールレアリストならではのセンスと、その精神がもたらす力強い魅力がある。
pika

pika