ひさかた

A.I.のひさかたのレビュー・感想・評価

A.I.(2001年製作の映画)
4.7
侮るなかれ、紛うことなきハードSF。

序盤の家族パートは「おっ、よくある人間と機械の差異の話か?」と余裕こいてたら、中盤と終盤で印象がアップデートされまくりました。
スピルバーグ監督、「万人にウケるSF」を作らせたら右に出るものはもちろんいないし、かといってSFの質は随一。バランス感覚がすごく良いんだろうな。

以下、「さすがだぜスピルバーグ」メモ。

序盤は、ガワがどれだけ同じでも人間と機械には埋められない溝があるということを家族関係をもとに丁寧に描いている。
人間の営みがデイビッドにはできない。食事も睡眠も彼にはいらない。これって、言ってしまえば人間より優位であることだと思うんです。とりわけ、作品世界の終末に近いような環境では。低コストでどんな環境でも人間の何十倍も生きていられるし活動できる。

そして、中盤では「機械であることの優位性 」が全く見えなくなるくらい愛に溺れてしまいます。中盤がいちばん好きです。
生きる分にはそりゃ機械の体の方が勝手が聞くけれど、彼は愛されるために人間になることを望みます。だって、機械は人間にとっては畏怖すべき対象で、モノでしかないから。真に愛される資格を得るために、人間としてママの子どもになりたいと切に願うデイビッド。超切ない。

「ママに愛されること」が自身のアイデンティティを示す唯一の方法だと、無意識に考えていそうなところもどこか虚しい。

最推しポイントは、ジゴロ・ジョーのいるサイバーでパンクな街並みです。最高。眼福。
ジゴロ・ジョーの立ち振る舞いは「かっこいい」のお手本みたいなので必見。

性欲という魔法によって、人間と機械がかりそめの愛を享受し合うことを生業とするジゴロ・ジョーと、
愛してもらうために自身の存在を否定し続けるデイビッド。悲しい対比もまた哀愁を誘います。

切ない、個と愛の物語です。
ひさかた

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