Melko

旅立ちの時のMelkoのレビュー・感想・評価

旅立ちの時(1988年製作の映画)
3.9
「ほんとに素敵な家族だわ。私の母は貝殻の贈り物を喜ぶはずないもの」

“You’re a bully.” (意地悪ね)
“No, I’m a liar.”(いや、僕は嘘つきだ)

「14年も自分の子供に会えない気持ちがわかるか?生死もわからずに」

邦題が盛大にネタバレしてる感のある作品。
全体的におっとりした、というか、追われる緊迫感があるようなないような、警察が出てこず、名前を変え逃げ回る家族「のみ」を描いているし、ほのぼの家族の団欒や、リバー・フェニックス演じる長男のロマンスなど平和な場面が多いので、間延びしてる感はある。
でもしっかり泣いた。1シーンだけだけど。
音楽の才能に秀でた長男を大学へ進学させるため、意を決した母親アニーが14年間音信不通にしていた自分の年老いた父親に会い、話をするシーン。
ベトナム戦争を終わらせたい、という確固たる信念があったとはいえ、人に失明させるほどの重傷を負わせ、他にも大勢の人に迷惑をかけた罪は重い。父親はそんな娘の愚かな行動に呆れ諌めつつ、涙ながらに自分の息子の夢を叶えてあげたい、だから面倒を見てほしいと懇願するその姿に、様々な感情を巡らせる。
たった5分ほどのシーンだけど、この一連のやり取りで泣いてしまった。身勝手な娘。彼女も同じように人の親となり気づく、自分の親の気持ち。各々の顔を交互に映す見せ方だけど、しっかり感情移入できた。

そしてやはりこの作品はリバー・フェニックス自身の物語だと思う。説得力が桁違いに感じる。
彼自身の生い立ちも非常に可哀想というか、混沌とした時代の混沌とした家族に生まれ育ち、幼い頃から生きるために人前で歌ったりしてたからこそ演技の道へ進み、彼がこうして出演している作品に出会えたわけで、でも違う家族の元へ生まれていたら、平和で穏やかな人生を歩み、今も生きていたかもしれないと思うと……住む場所を転々とする暮らし、家族と離れたい気持ちと、一緒にいたい気持ち…「ギルバート・グレイプ」に少し似てる。ギルバートと同じように、ダニーの目も、いつもなんとなく虚ろ。何かに全力で打ち込んだり、夢を追いかけることを諦めてしまったような。何かを頑張って結果を残しても、どうせまたすぐ違う人生を生きなきゃならないんだもんな、、

素性が普通なら、とてもいい家族なのに。
こんな緊張感のある生活、耐えられない。。

子供は親の所有物ではないし、一緒にいなければならないということもない。
独善的でいつも怒ってばかりだった父親が最後に見せた、微笑み。

ピアノのゆったりしたBGMや、ガールフレンドとの気だるいやり取り等、気の抜ける場面が多いけど、ラストのダニーの表情で上手く締まった。
あの顔での、あの表情は、リバーにしかできないと思う。
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