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武蔵野夫人のchanmoreauのレビュー・感想・評価

武蔵野夫人(1951年製作の映画)
3.8
大岡昇平原作を溝口が映画化
原作未読でアマプラで初見
(リマスターではなく画は良くない)

生まれも育ちも今も武蔵野に暮らす自分には
何となく気になっていた本作
「夫人」が後ろにつく作品は
真珠、チャタレイ、ボヴァリー、鎌倉など
何となく優雅で有閑マダムな印象がある
だが大岡×溝口だけあってヤワな訳が無い😅

溝口と言えば大映だけど本作は東宝で
主演田中絹代は松竹から借りて撮ってる
この田中演じる道子さんが終戦直前に
夫婦共々都内の家を焼け出されて
自らの武蔵野の実家にやってくる
3年経って実父も亡くなり道子は土地家屋を
相続する 夫は仏文学の教授で調子が良く
夫妻の間に子はいない
隣家の夫婦とも縁戚があり
仏文の夫は隣の夫人に想いを寄せる
そんな中、道子の歳下の従兄弟が
復員兵として帰ってくる

この夫婦2組と若い男の5人の中で
ふわふわした絡みが進行していく
「戦争の陰を残したホームドラマ」にも
様々な名作はあるなかで
本作も冒頭からクレーン使って長回しで
人物を丹念に追う溝口らしい作りだけど
この脚本なら成瀬の方が合ってるよなー
「浮雲」みたいな名作の香りがないなー
等と思いながら観てしまう
ちなみに武蔵野といっても恋ヶ窪の手前
あたりが一家の居宅で道子と歳下の従兄弟が
足を伸ばすのは狭山あたり
溝口といえば「川の流れ」と「水面」で
屋外ロケのショットは美しい

周囲の4人は戦後の新たな風を大いに吸って
洋装でタバコを吹かし自由気ままに振る舞うが
田中絹代は冒頭から最後まで和装のままで
親からの遺産を受け継ぐも子供はおらず
歳下の従兄弟への想いは抱えながら
一歩を踏み出す事は出来ない
「戦前からの因習」を象徴するようだ
そんな宿命が後半に救いよう無くのし掛かり
観終えるとあぁやはりこれは溝口だなぁと
改めて思わされる
勿論もっと重厚な名作は数多あるので
溝口でまず観るべき傑作とは言えないけど
90分の尺内で気軽に溝口エッセンスを
味わえる一本だなー
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