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黒の奔流のakrutmのレビュー・感想・評価

黒の奔流(1972年製作の映画)
3.5
国選弁護人として勝ち目がないと言われていた殺人事件で無罪を勝ち取った若き弁護士が巻き込まれる騒動を描いた、渡辺祐介監督のドラマ映画。松本清張の短編小説『種族同盟』が原作となっていて、本作後もTVドラマとして何度か映像化されている。

最初のほうは法廷ものだとばかり思っていたが、最初の30分くらいで無罪判決が下されてしまう。原作を未読であれば、いろいろな選択肢はあり得るので、そこからどのように展開していくかを楽しむことができるだろう。まあ結局、予想のつく展開になっていくが、それでもラストはちょっと予想外だった。

一方で、原作を知っていればもちろん大まかな展開はわかるのだが、原作と本作では被害者と容疑者の性が入れ替わっている。原作では旅館の番頭である男性がバーのホステスを殺すという事件なのだが、本作では女中の女性が馴染みの客を殺すという事件として描かれる。無罪に導く弁護士はどちらでも男性なので、弁護士と無罪となった女性が恋愛関係になるという原作にはないエピソードが加わり、その結果としてテーマが法律劇から愛憎劇に大きく変わっている。本作以降の全てのドラマ化作品でもこちらの設定を利用していることからもわかるように、原作のドラマ化の方法としては完全に成功していると言える。

主人公の弁護士を演じた山﨑努は注目される前の若い頃で、まだあの味わい深い演技は見られない。そういう意味では、容疑者の女中を演じた岡田茉莉子の貫禄勝ちと言えるが、言い方を変えると、彼女に演じさせるほどの役でもないとも言える。事務所の事務員で愛人でもある女性が意外にも重要な人物なのだが、その彼女を演じた谷口香(テレビや舞台が中心で、映画の出演は多くないみたい)がなかなか印象に残った。初々しい松坂慶子を拝むこともできる。
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