真田ピロシキ

クレオパトラの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

クレオパトラ(1963年製作の映画)
3.8
4時間11分。流石に長すぎて公開時はこれよりも短かった模様。シーザーと共に歩む黄金期とシーザー死後の衰退がインターバルを挟んで2時間ずつに分けられてて、現代ならば前後編二部作として容易に上映できたであろう。そういう興行形式が受け入れられなかった当時の市場に思いを馳せられる点でも面白い。

前半のクレオパトラは野心家にして聡明で偉大なる女王の風格。シーザーとの初対面シーンの茶目っ気がありながら度胸に満ちたその姿。男を頼る立場でありながら卑屈さなど一切ない。稀代の傑物シーザーと結婚し子を儲けてシーザーの野心にも火を付け昇りつめて行く。しかしその野心が仇となりシーザーは暗殺されエジプトへ逃げ帰る。後半で頼るのはアントニウス。ひとかどの人物なのは間違いないが、シーザーに比べると1枚も2枚も落ちる。何せメンタル面がガラス。動揺して取り返しのつかない誤ちを犯してしまいなかなか立ち直れない。そんな男を頼るクレオパトラも前半の風格はなく泣き崩れてしまう始末。しかしこの2人、愛の深さで言えばシーザーの時より強固。シーザーの時は打算的なものがあったが、アントニウスは運命共同体。最大の敗因もアントニウスが戦死したと思って逃げたクレオパトラにアントニウスが乱心というもの。愛するが故に破滅して行く無様な後半の方が煌びやかな前半より心を打たれる。当時エリザベス・テイラーとリチャード・バートンが不倫関係にあったとのことで真に迫っているのも納得。2人の関係を知って見てた当時の観客にはさぞかし面白かっただろう。タイミングにも愛された映画の魔法。

途轍もない大金を投じたことで有名でFOXの経営が傾いたほど。CGなどもちろんない時代なのでセットを作って人海戦術。そのスケール感はシーザーがエジプト上陸したところあたりで既に感じられる。頂点に達するのはクレオパトラがローマを訪れた時のパレード。その豪華絢爛たるや至福の時。それがだんだん陰りを見せて行く様に哀しさや儚さを感じ入る。それを一本の映画として一気に見ることで栄枯盛衰の思いを強まらせる。現代のように二部作構成であったら見易さと引き換えにドラマの強度は薄まっていたかもしれない。そういう意味でも時代に愛されてる魔法の映画だと思う。