真田ピロシキ

バービーの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
3.7
グレタ・ガーウィグの『レディバード』を評価しておらず、加えてイスラエルの件でハリウッドの唱える啓蒙に嫌悪感がありマイナスからのスタート。

見初めて思ったことは「分かった分かった。言いたいことは分かったから。」だった。とにかくよく喋る。私はアンチフェミニストじゃないのでその主張に嫌悪感を示すことはないが(本当だって)、それをいちいち台詞で表されると野暮。拙作ながら二次創作小説で人形のように意思を他人に委ねている女が自己を取り戻す話を書いていて、そこでは極力台詞の外で匂わせられるよう苦心しているのに、これは映画で学べるフェミニズムのような体。漫画の『作りたい女と食べたい女』5巻で同性カップルの部屋探し事情が説明的すぎて閉口したことを思い出す。台詞にしてない部分にしても、現実世界に行ったケンが金融、馬、デカい車と言った様々な"男"の象徴を見て感化されるところも分かりやすすぎてシラける。女児向け人形を売るマテル社の重役が男ばっかりの自民党企業なのをわざわざ指摘してくれるのもスマートじゃない。しかもCEOが自分は差別的な人間じゃないと主張するために「ユダヤ人の友人がいる」と言って、今のハリウッドがそれ言ったらシオニスト宣言にしか聞こえず最悪。やっぱりグレタ・ガーウィグってと思った。

それでも画面に集中力をある程度向け続けていられたのは本作のプロデューサーも務めた主演のマーゴット・ロビーで彼女は自分がどう見られているかをよく分かって逆手に取っている。頭の軽そうな金髪美人。『ウルフ・オブ・ウォールストリート』で名の知られた彼女はその後シリーズ自体はパッとしなかったもののDCコミック映画のハーレイクインとして、おバカに見えてタフで強かで魅力的なキャラクターを見事に表現してて、そんな彼女が愛玩人形の自意識の目覚めを演じるのだからそりゃ面白い。内容自体はフェミニズム啓蒙色がとても強くてマンスプレイニングやジェンダーバイアスみたいな例がこれでもかと挙げられててしつこさを覚えるのだけれど、演者の力によってそれはかなり相殺されている。

この辺で好意的に見れるようになってきていたため、他の要素も楽しく感じられて現実世界の男らしさに毒されたケンによるバービーランド改めケンダムのカリカチュアしすぎたマッチョワールドも笑える。流石に銃はない。これが日本版だったら二次元美少女の卑猥な広告が所狭しと溢れて、巨大ロボットもあるだろうなあ。ガンダムとか。ケンダムだけに。見どころはバービー集団に仲違いさせられたケンたちによるケン戦争。ビーチでのキッチュな乱戦を経て、MVかCFのように謎にスタイリッシュなダンスを披露するおかしな演出。なんだこの映画は。良いぞ。

物語の結末として大統領でも最高裁判事でも作家でもない定番タイプのバービーが何者かになるのではなくそのままの定番でいて、変化を起こしに現実世界へ行くのも良い落とし所だと思う。バービーに詳しくないが最近は色々な多様性を出されているとは言えやっぱり何らかの理想を込められていたわけでしょ?でも憧れの誰かになろうとしなくていい。ただの人でいい。それで最後の選択。あれはトランスジェンダーも包括しようとしたと考えていいのかな。ここは饒舌になりすぎておらず良かった。

それにしても思うのはこんな文化的巨大アイコンを使用して直球の社会批評を行える点だ。ファッキンアメリカファッキンハリウッドと常々叫んでいる身であるが、こういうところは素直に羨ましく文化の成熟と知的さを感じる。我が日本では「鳥山明は政治主張しなかったから本当のクリエイターで偉い」なんてことを臆面もなくほざくバカの世界チャンピオンがいますからなーそりゃ漫画アニメゲームのサブカル漬け幼稚国家になりますわ。知性の敗北。何故アメリカの植民地意識が骨の髄まで染み付いているのにこういうとこだけは影響されないのやら。