Antaress

海の上のピアニストのAntaressのレビュー・感想・評価

海の上のピアニスト(1998年製作の映画)
4.5
トルナトーレ×モリコーネの黄金コンビによる切なくも美しい物語。

この二人の手掛ける映画は人生の愛しさ、儚さ、大切さを思い出させてくれる。

海の上で生まれ、海の上で人生を終えた1900。彼にとって船の中が世界の全てだった。

もしも彼の育ての親ダニーが寄港の折々に彼を陸の世界に連れ出していれば彼の人生も違ったものになっていただろう。それをしなかったのは1900が国籍も何も無い【この世に居ない】人間だったからなのではないか。

思うにダニーは自身が養護施設出身でその為苦労して来たのではないだろうか。だから【息子】には同じ苦労をさせたくなかったのだと思う。
陸に連れ出せば【息子】の素性が警察などに知られ養護施設に預けられてしまうと懸念していたのではないか。

あと少しの勇気が1900にあればアメリカの地に降り立ち、魚屋の娘にも会いに行けただろう。

でも彼の世界は船の中で帰結していた。そこでは船長もバンド仲間も料理人もその他の船で働く人々は全て家族だった。肌の色は関係ない。

陸の世界ではそうは行かない。
周りは全て他人で人種差別は当たり前。国籍も無い彼はまずそこからクリアしなければならない。

船での生活が世界の全てだった彼には船が無くなること=世界が終わることだったのだ。

とても切ないラストではあるが1900を最後まで「陸に行こう」と説得してくれた親友マックスの存在は彼にとっての最高の花向けだった筈だ。

マックスは楽器屋の主人からトランペットを返されたがせめて1900の思い出を語りながら音楽を続けて行って欲しい。出来れば魚屋の娘にも天才ピアニストの話を伝えて欲しい。


嵐の晩、船酔いに苦しむマックスを誘い、ピアノを弾きながらホールを踊る様に滑るシーンが美しい。
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