マチュー

サクリファイスのマチューのネタバレレビュー・内容・結末

サクリファイス(1986年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

耳に残るは尺八の音色。ボソボソと交わされる会話。
初老の郵便局員が語る謎のエピソード。
そして彼や、昔ながらの友人である医師や、妻(ちょっとした悪妻であるらしい)や娘に誕生日を祝われる文筆家の男――彼が主人公だ。

その日、50歳の誕生日に、彼は言葉を失くしたちいさな息子と共に湖の岸辺に日本の木を植える。
毎日決められた時間に水をやること、その秩序が大事だと彼は愛する息子に言う。
ところで、男が誕生日を迎えたその日は、世界が終末に向けて転がり落ちた日でもある。
自然を徹底的に破壊する核爆弾が、その日、ミサイルとなってうちこまれたのだ。
彼は自らを犠牲にすることで世界を救おうとする。家を燃やし言葉を封じ、祈りに人生を捧げる、だから救ってほしいと祈る。

顔色の悪い郵便局員が、教会に住んでいる男の家政婦と寝るようにと促す、彼女は"善い魔女"だからきっと救ってくれると言う。
彼女は魔女だったのか?それはわからない、しかし、彼女に愛された翌日、陽は昇り、電話は通じ、医師はオーストラリアへの移住を決め、妻は娘に嫉妬し、男はみんなを湖へ誘導しておいて家を燃やし、言葉を封印する。
1カットで、燃えさかる家がついに崩れるまでのあいだ、男が無言で湿地を這いずるようにかけまわり、救急車が男を連れ、みんなが思い思いに絶望したり放心したり叫んだりするさまが描写される。
ガラリと音をたてて家が崩れた瞬間、カットが変わって、冒頭、男がたのしげに語った話のとおりに、息子が初めの1日を生きる姿が描かれる。
木に水をやり、根もとに寝ころんで、彼は呟く――まるで言葉を封じた男のかわりに、言葉を獲得したかのように――はじめにことばがあった、でもなぜなの、おとうさん?
マチュー

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