荒野の狼

カジュアリティーズの荒野の狼のレビュー・感想・評価

カジュアリティーズ(1989年製作の映画)
5.0
『カジュアリティーズ』(原題:Casualties of War)は、1966年にベトナム戦争中に起こった米兵による戦争犯罪事件を映画化した1989年のアメリカ作品。映画化は二回目で、最初の西ドイツ作品「o.k.」は1970年のベルリン映画祭に出品されたが、「反米」作品としてアメリカの審査員らが検閲したため映画祭自体のコンペティションが中止されることになった。本作の監督ブライアン・デ・パルマは、「o.k.」を見たいのだが、見ることができないでいるとインタビューで応えている。戦争史の中で埋もれてしまいそうな市民に対して行われた戦争犯罪事件を、アメリカが約20年を経たとはいえ、映画化したことは貴重。本作品で描かれた女性に対する戦争犯罪と同様のことは旧日本軍が従軍慰安婦を含めて軍が構造的に行っており、規模はあるかに本作品の事件をはるかに上回ることを考えると、本作品は他人事ではなくなる。
ベトナム戦争で一般人女性の被害を描いた作品としては1993年のオリバーストーン作品「天と地」があるが、本作では米兵側の葛藤が作品の焦点。主演はカナダ人のマイケル・J・フォックスで、DVDの特典のインタビューでは、フォックスは本作でそれまでのバックトゥザフューチャーなどで演じてきた役柄とは異なる路線のものを演じたかったと述べている。この特典映像のラストに収録されているシーンは以下のフォックスのセリフだが、「明日の命すらわからない時こそ、自分がどう行動するかが大切になる」というメッセージ。このメッセージを裏返せば、戦時ではない世の中で安穏に先の長い毎日を暮らす我々は、どう行動していくべきかを、しっかりと考えていく必要があることを知らされる名言である。

Just because each of us might, at any second, might be blown away, everybody’s acting like we can do anything, man! And, it don’t matter what we do! いつ吹き飛ばされるかわからない。だから何をしてもいいと、何も構わなくなる。 But I’m thinking, it’s the other way around. だが、きっと逆なんだ。The main thing is just the opposite.大切なことは反対だ。 Because we might be dead in the next split second, maybe, we gotta be extra careful what we do. いつ死ぬかわからないからこそ、よけいに考えるべきなんだ。Because maybe it matters more. 構うべきだ。Jesus, maybe it matters more than we even know. きっとそれが大切なんだ。

本作の撮影はタイで行われ、ジャングルや基地は映画のために作られたもの。映画のハイライトのシーンは、映画「戦場にかける橋」で有名なクウェー川鉄橋(=クワイ川鉄橋)で行われた。米軍がベトナムを攻撃しながらも味方の船まで破壊してしまうシーンもあり、戦争の愚かしさを示したと監督はコメントしている。

本作品のエンディングでは、犯罪に問われた一人の兵士の刑が、控訴によって軽減されたことがテロップで流れるが、実際は、関わった全ての兵士の刑が、最初の判決より軽減されている。
本作で犯罪に巻き込まれるベトナム人女性を演じたのはテュイ・テュー・リーで、リーは女優ではなかったが、監督の作品「アンタッチャブル」が好きであったことなどから、本作の出演となった。本作では二役を演じており、冒頭とラストに登場する女性と、戦争に巻き込まれる被害者。ベトナム語を話せる女優が当時見つからなかったことで抜擢となった。映画のラストでベトナム語でフォックスとリーが挨拶のことば(字幕では「さよなら」と訳されているが、「こんにちは」などの挨拶語)を言うが(フォックス: chào côジャオコー、 リー: chào anh ジャオアン 「co」は女性に 「anh」は男性に対して使う)、リーのこの部分のセリフは吹き替え。
荒野の狼

荒野の狼