船舶パニック映画の金字塔。客船をひっくり返した大掛かりなセットに、水面がどんどんと迫ってくるサスペンス、個性豊かな乗客たちの人間ドラマを手際よくまとめ上げていく手腕に毎回舌を巻く。単純明快なスペクタクルとストーリーの裏側に、選択を迫られ、希望を託しても裏切られ、それでもなお選びながら生き続けなくてはならないという実存主義的な問いかけを忍ばせた。神の存在に疑問を抱き、前進のみを是とするジーン・ハックマン演じる牧師が、文字通りストーリーを引っ張っていくが、本当の主人公は、牧師と強烈に共振しながらも、怒りっぽく、常に悪態をついているアーネスト・ボーグナインだったのだと知った時の驚きと感動は忘れられない。緊迫した物語にひと匙のユーモアを加え、終盤に大活躍するシェリー・ウィンタースも素晴らしいが、歳を重ねると妻への深い愛情に支えられながら、もう一度立ちあがろうとするジャック・アルバートソンの演技にも心惹かれる。
