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FAKEのマーチのレビュー・感想・評価

FAKE(2016年製作の映画)
4.2
【レビュー】
《見惚れる程の鮮やかな恐怖に支配される秀作》

凄い…凄過ぎる……見事に騙された。
ゴーストライター騒動の真実に迫るドキュメンタリーなのかと思っていたら、トンデモナイ間違い。ドキュメンタリーの皮を被った、メディアリテラシーについてを間接的に諭される作品だった。

白か黒か、善か悪か、二極化したり、二元論で語って仕舞えば確かにシンプルで分かりやすい。でもそこに真実は存在しないし、難しいモノや分かり難いモノを敬遠してしまいがちな時代だからこそ、メディアリテラシーの教科書としてこの作品を推奨したい。

この作品の中で「佐村河内さん側」「新垣さん側」どちらが本当の意味での被害者なのか揺さ振られる瞬間が何度もある。しかし、最終的に辿り着いた先はグレーゾーン。

メディアの報道だけを追っていれば大半の人が佐村河内さんを絶対悪として位置付けるだろうし、この作品を観ただけではその強固な印象は覆らないかもしれない。勿論、覆す必要も無いけど、少しだけほんの少しだけでもグレーゾーンに引っ張られる瞬間があったとすれば、この作品は大成功だと思う。

鑑賞後に感じたのは、グレーゾーンで終わる真実もあるのだということ。そして、森達也監督の手腕により、恐ろしいほどに『FAKE』な作品として誰もが騙される。

【p.s.】
この作品を“夫婦愛”という生半可な言葉で総括するのは如何なものか…ドキュメンタリーであることの必然性を感じて欲しい。

「ゴーストライター騒動の“その後”」という、題材としては申し分ない被写体を得て客を引きつけ、本編は森監督の裏テーマを水面下に忍ばせつつも浮上させない程度に留め、あくまでもゴーストライター騒動の後日談として観せている。

ドキュメンタリーと言えども編集による演出の妙が加わることで、真実を虚偽にもグレーにもできるし、相手に与える印象も違ってくる、変えられる…これ以上の怖さはない。

*あくまでも、全て個人的な解釈です。

【映画情報】
上映時間:109分(劇場公開版)/128分(ディレクターズ・カット版)
2016年 日本/監督 森達也/出演 佐村河内守/ゴーストライター騒動で日本中の注目を集めた佐村河内守を捉えたドキュメンタリー作品。監督は、オウム真理教を題材にした「A」「A2」等の森達也監督。
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