わたふぁ

FAKEのわたふぁのレビュー・感想・評価

FAKE(2016年製作の映画)
4.0
森監督の新作、やっと拝めた。地元の劇場公開を逃してから観たい観たいと思っていたけど、膨れ上がった期待をゆうに超えてくる素晴らしい作品でした。

本編が始まってしばらくは、佐村河内さんと奥さんと森監督の3人の会話が続き、初めて外部の人(フジテレビのディレクター)が家に入ってくるシーンで、「A」の映像が鮮明にフラッシュバックした。

オウム真理教の道場に、記者の群れが押し寄せるが、信者でも何でもない森監督が内部をスイスイと歩きまわり、それらの出来事を全てカメラに収めている滑稽な状況。全く同じだった。

15年が経っても監督のスタンスに変わりはなかった。マスコミの偏向報道に対する鋭い視線。無言がマスコミへの嘲笑に聞こえた。

そんなことより、だ。
フジテレビの人間が「森達也」を目の前にして「佐村河内さんのスタッフの方ですか?」と言ったのには驚いた。
「なぜここに森監督が?」となるべきところだろう。報道人として「森達也」を知らないことを恥ずべきだ。
フジテレビの安永さんという方は、報道一筋で「みんなのニュース」で総合演出を務めているらしい。そんな人が森達也を知らない、なんて。一回見たら忘れられない顔の森監督を、見たことがないなんて。勉強不足では。

一方で、海外メディアのストレートな取材は凄かった。
佐村河内さんが新垣さんに渡したという楽譜にあたる“指示書”を見て、「この文章のようなものがなぜ音楽に変換されるのかがわからない。誰でもわかる楽譜の書き方を覚えないの?」ということや「新垣さんによってメロディー化されたものが指示書の通りの音楽だって、どうしてわかるの?耳が聞こえないのに。」などなど。
笑い者にする事しか考えていない日本のマスコミとは質問の質が違う。が、この時点で、もうそんなに佐村河内さんのこと攻めないであげてー!という気持ちでこちらは一杯になっていた。

これは佐村河内さん夫妻の、FAKEの反対、PURE=純愛のドキュメンタリーだったと思う。

編集、編集の映像にまみれて疑心暗鬼にもなる毎日のなかで、森監督だけが見せてくれる“真実と思しき真実”に触れられて、妙に安心したというか、「(映像作品に対しての) 安堵感」に満ちたエンドロールを迎えられたことが嬉しかった。ひとつの映画体験として。