広島カップ

チャップリンの殺人狂時代の広島カップのレビュー・感想・評価

チャップリンの殺人狂時代(1947年製作の映画)
4.0
本作をチャップリン(以下C)の典型的なコメディと言うには戸惑いを感じます。
いつもとちょっと違うコメディ風シリアスドラマといった方が近いでしょうか。

女を騙して大金を手に入れては殺害する男ヴェルドゥ氏(C)。
※「人生に必要な物は愛と勇気と少しのマネー」ではなかったのか?

オープニング、庭で楽しげにバラを摘んでいる男の後ろには黒煙の上がる焼却炉。
※愛がテーマだったCが女の死体を焼くというシーンを作品に入れて来るとは。

男の歩く庭の径に一匹の毛虫が這っているのを見つけると「踏まれちゃうよ」と言って情をかけ摘まんで脇によけてやる男。
※女は簡単に殺すのに虫は救うという分裂した人物をCは今までに描いたことはない。
『独裁者』(1940)で両極端の二人は演じましたが。

彼に接近してきた刑事は躊躇なく毒殺するが最後には自ら出頭する男。
※権力に対しては徹底して戦うのではなかったのか?

ラストは絞首刑台のある画面奥の部屋に手錠をされ歩いて消えて行く。
※手と手を取り合って希望ある明日に向かって道の向こうに消えて行くのがCではなかったのか。

家族を養う為に金持ち女を殺して金を奪い、毒薬のテストをするために近づいた身寄りの無いの別の女にはその奪った金を与えて見逃す男。
※Cの愛がようやく垣間見れる所。

これまでのCの作品で彼が演じた人物の逆を行くような主人公ですが、これを鍛え上げられた笑いの芸を時折所々に挟み込んで観せ、最後にはCらしい痛烈な戦争批判。

本作はコメディ要素抜きでやろうとしても充分一本の作品になりそうなストーリー。
例えばこれをヒッチコックがアンソニー・パーキンスを主演にしてやってもできそう。
それとも北野武が大杉漣を主演にしてやってもできそう(たけしが主演ではダメです。すぐ笑いを取ろうとしちゃうから)。
ただ両者共に殺害場面をリアルにやってしまいそう。

重要なトレードマークの髭が放浪紳士の時は付け髭だったのに対して本作では自前の髭であるという所にも本作の「いつもとちょっと違う」が表れています。

no1400
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