ぎー

キング・オブ・コメディのぎーのレビュー・感想・評価

キング・オブ・コメディ(1983年製作の映画)
3.5
【ロバート・デ・ニーロ特集4作品目】
「君らは僕がイカれてると思うだろう。だが、ドン底で終わるより一夜の王になりたい。」
コメディアンのジェリーが大勢の出待ちに囲まれるシーンから映画は始まる。
凄まじい人気。
日本でいえば、明石家さんまやビートたけし、ダウンタウンみたいな位置付けなんだろう。
ただ、終始思ったのは警備の甘さ。
これだけの大人気売れっ子の車内に、狂信的なファンが乗り込んで本人を待ってるなんてあっちゃいけない。
生命がいくつあっても足りない。

主人公のルパートはジェリーに必死に自分を売り込む。
人によってはこのシーンを滑稽だと思うかもしれないけど、僕は全然思えなかった。
自分の夢を実現するための努力って色々あると思う。
確かにルパートは技を磨く努力はそれほどしてないかもしれないし、アプローチは間違ってるかもしれないけど、ちゃんと夢を持って、それを実現するための営業活動を必死に行なっている姿は、なんなら羨ましいとすら思った。
あと、多少鈍感な方がチャンスを掴む可能性は広がるかもしれない、とも思った。
あんなリスクやこんなリスクが、とか思ってたら何も動けないし、相手の顔色ばっか窺ってたら、やりたいようにできないもんな。
もちろんルパートはやり過ぎだけど。

ただ、ルパートの妄想は気持ち悪い。
デ・ニーロの演技は凄まじい。
多くの人が言うように、『タクシードライバー』『ジョーカー』に重なる。
夢を追い続けて行動するのは良いけど、妄想が膨らんで、現実との見分けがつかなくなって、他人に迷惑をかけたのであれば、それは正常ではない。

そんなルパートの病的なまでの向こう見ずな行動力が功を奏したのが、ある意味学生時代の憧れの女性とのデートだと思う。
多くの人がわかると思うけど、異性に対するアプローチとかナンパとかは、ある意味一定の向こう見ずさ、鈍感さが必要だったりする。
ここで恥ずかしがって、女の子に声かけたり誘ったりしてなかったら、デートなんて実現しなかったわけだし。

その後のルパートの事務所へのアプローチはかなり病的。
芸能系だからそういう売り込みに慣れているのか、事務所の対応はかなり紳士的だったと思う。
乱暴に追い出すわけでも、売り込みを嘲笑うわけでもなかった。
売り込む側の視点に立つと、売り込まれる方の対応ってかなり印象に残るから、かなり大事だと改めて思った。

序盤はまだ病的なだけで、"悪人"ではなかったけど、オフィスに不法侵入するに至って完全に"悪人"になる。
別荘に侵入するに至ってそれはピークに達する。
冒頭少し共感できると感じたものの、その感じはこの辺りで完全に消え失せる。
恥ずかしくても、人に馬鹿にされても盲目的にやり続けることと、人に迷惑をかけ、不快にさせ、法を犯すことは大きく異なる。
この点、エンディングを観客の解釈に委ねたこの映画はかなり危険な映画だと感じた。

誘拐はもはやコメディ。
動機も手法もかなりお粗末で子供じみている。
制作側もそれを分かっていて、かなり滑稽に描写している。
映画を見ている誰一人として、誘拐されたジェリーの生命に危険を感じなかったと思う。
特に脅迫文をジェリーが読む時、むしろルパートが動揺していてうまく文章を出せず、ジェリーに嗜められているのは、この映画の中でも有数の面白い場面だった。
あと、ジェリーのグルグル巻きの仕方も秀逸だった。
ルパートと熱狂的な女ファンの浅はかさを上手に表現してたな。

ジェリーは話を売り道具にしてるだけあって、流石だった。
誘拐されても冷静にルパートを宥める言葉を選んで話していた。
あの状況でなかなかできることじゃない。

ルパートが誘拐をフックに見事テレビ出演を果たす場面は『ジョーカー』の終盤そっくりだった。
しかも喋りが悪くないし。
後世の映画にも影響を与える偉大な映画だったってことだな。

エンディングについて諸説あるのは有名な話。
現実なのか、ルパートの妄想なのか。
僕は現実であってはならないと思う。
し、模倣犯とかを防ぐためにも妄想だとはっきり分かるように描写して欲しかったな。
例えもともとルパートが悪人でなく、能力もあり、境遇に恵まれていなかったとしても、犯罪を犯して夢を実現する、人々の喝采を浴びるなど、あってはならない。

繰り返しになるけど、数々の後世の映画に影響を与えた偉大な映画。
どうしてこの映画が興行的に上手くいかなかったのか、理解できないくらい良くできた映画だった。
主人公達のあまりの浅はかさに笑いがあり、一方で主人公ルパートの境遇、夢への直向きさを考えると共感もあった。
よくできているが故に、少し共感できる主人公が犯罪に走る、かなり危険な映画に仕上がっている。
スコセッシはやはり天才だし、『タクシードライバー』同様、狂った主人公を演じ切るデ・ニーロの演技は神がかっていた。
ついつい重厚になりがちなスコセッシ✖️デ・ニーロ黄金コンビの名作だけど、基本がコメディなのでライトに見れる、色んな人にオススメの傑作だった!
ぎー

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