Sari

現金に手を出すなのSariのレビュー・感想・評価

現金に手を出すな(1954年製作の映画)
3.8
男たちの友情、そして老いを描いたベッケルの傑作フィルム・ノワール。
フレンチ・フィルム・ノワールとも言われるフランス製ギャング映画の古典的名作で、主演のジャン・ギャバンの代表作の一つ。

初老のギャング、マックスは、相棒のリトンと共に、5千万フランという金魂の強奪に成功する。しかし、リトンの情婦(ジャンヌ・モロー)を通じてその事実がギャングのアンジェロ(リノ・ヴァンチュラ)に漏れてしまう。
アンジェロはリトンを捉え、金魂と引き替えに身柄を渡せとマックスに迫る…。

◼️
フィルム・ノワール(暗黒映画)というフランス語がある。
第二次世界大戦後、『マルタの鷹』など40年代ハリウッドの犯罪映画を見たフランス人が熱狂して付けたジャンル名である。

しかし、ジャック・ベッケルは本作によってアメリカ映画とはひと味違う独自の格調と味わいをもったギャング映画を完成する。
これがいわば、フランス製フィルム・ノワールの始まりであり、この『現金(げんなま)に手を出すな』によって創始されると同時に完成されてしまったと言われる。

パリの夜の街の沈んだ雰囲気。
そこに嫋々と流れるハーモニカ(ジャン・ヴィエネル監督の「グリフピーのブルース」
折り目正しく禁欲的なギャングという人間像、男同士の友情と裏切りという不滅のテーマ。寡黙で淡々とした日常生活と激しいアクションの対比。そのような要素がまるで工芸品のような正確さで組み合わせる。

原作者はフランス暗黒街小説を代表するアルベール・シモナンで、やくざ言葉の使用に特徴があるという。

ジャン・ギャバンは、フランス映画黄金期を代表する名優。渋い初老の男の悲哀を漂わせる円熟した個性でファンを魅了し、本作の役柄では、ギャバンの後半生の役柄を決定した点でも意義深い映画である。

映画女優としてデビューしたてのジャンヌ・モローは、ふたりの男の間を行き来し、自らの魅力にまだ無頓着なまま、犯罪に関わる男たちの運命を翻弄し、闇の中の壮絶な闘いへと導いてしまうコケティッシュな踊り子を演じている。
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