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電送人間のbluetokyoのレビュー・感想・評価

電送人間(1960年製作の映画)
3.3
リアルタイムではもちろん見ていない。産まれてもいないし。ただ、この手の映画が人気を博し、盛んにリバイバル上映された頃、いつだろう、90年代ごろだろうか、そのときも、見ていない。パーツへの興味本位、そういう感じだったので興味はなかったのだ。
いま、初めて見て、びっくりなのは、最後のオチが無いのだ。斬新なのか、特撮シーンにエネルギーを注いだのでそこまで手が回らなかったのかわからないが、それはそれでよかった。
お化け屋敷で塚本という男が銃剣で刺殺される事件があった。科学部か何かの記者、桐岡は、たまたま、現場に落ちていた部品に気付き、この事件に興味を持つ。被害者の住んでいたアパートを訪れると偶然、同級生だった小林警部と出会う。小林警部は、塚本が密輸をやっていたということで、調べに来ていたのだ。ついでに、同じアパートに住んでいるヒロインの中条明子とも出会っている。
密輸つながりで隆の経営するキャバレーに張り込みする。桐岡も付き合う。そのとき、隆も銃剣で刺殺されてしまう。一緒にいた、大西と滝はびびって、経緯をすべて警察に白状する。
終戦直後の混乱期、仁木博士の研究資料を疎開させるわけだが、そこに軍資金の金塊を横領する目的で混ぜて輸送した。結局バレて、護衛の須藤兵長を殺害。その場にいた仁木博士も目撃者として殺害し、洞窟に埋めてしまった。一年後、洞窟を掘ってみたが、金塊も須藤兵長と仁木博士の遺体もなくなっていた。その復讐ではないか、ということ。
滝は甲府に帰った。小林警部は滝を警護するが、またしても、銃剣で滝は刺殺されてしまう。一方、桐岡は、明子と共に、浅間山の山麓の小谷牧場に来ていた。明子は会社の冷却装置のメンテナンスのため。桐岡は仁木博士が研究していた電送装置が冷却装置を必要としていたことを掴んでいて、怪しいと思ったので一緒に行ったのだ。
小谷牧場の経営者は中本という男だったが、実は須藤その人である。さらに、なぜ、明子を呼んだのかというと、アリバイのためである。
最後に残った大西は、ついに別荘のある小島に隠れる。だが、そこにも電送人間が現れて、やはり、銃剣で大西を刺殺する。直前に警察も来て、電送人間を追うが、電送人間は名前のごとく、電波になって、逃げようとする。その直前、浅間山が噴火して、小谷牧場と共に電送装置も埋もれてしまう。そこで終わりである。
ちなみに電送装置は小谷牧場にあって、たとえば、須藤を電波に変えるのだが、その電波をもとの須藤に戻す、受け手の子機のような装置も必要なのだ。だから、目的地の近くにあらかじめ子機を設置し、かつ、証拠隠滅のために、須藤が小谷牧場に戻れば、破壊しなければならない。
とすると、最初のお化け屋敷では、部品が落ちていたのだから、お化け屋敷の中に子機があったのだ。二番目のは、芝浦の倉庫地帯に子機があった。ということは、キャバレーのあった場所は少なくとも、芝浦の近くであろう。三番目は、近くの駅の貨物列車の中。四番目は遠くない場所の農家のような廃屋である。
ついでに言えば、須藤は四つの殺人をすべて成功させている。しかも、最後の殺人の直後に浅間山が噴火して親機のある小谷牧場を埋めてしまえば、痕跡も残らない。噴火の被害者というだけである。
もし、科学部担当の桐岡が、たまたま、興味を持たなかったら、あるいは、興味を持ったとしても、同級生の小林警部が関わっていなかったら、電送装置自体が知られることはなかっただろう。
では、この映画はどういう映画なのだろうか。ゴジラ映画の系譜になるわけだが、もう一つ、思い浮かぶ映画は、ゆきゆきて、神軍である。
須藤は、おそらく、たんに報復のために四人を殺害したのではなく、軍資金の金塊を横領しようとしたことに対する制裁のために殺害したのであろう。須藤にとって、戦争は終わっていなかったのである。顏の傷は、電送のときの失敗によるのかと思ったら、大西らに襲われたときのものだった。洞窟に埋められてのだが、実は、それほど致命傷ではなかったのだろう。あのあと、すぐに、洞窟を抜け出し、ついでに、仁木博士、仁木博士の研究資料、さらに、金塊も持ち出したに違いない。
その金塊で浅間山の麓に牧場を作り、電送装置の開発拠点にしたのだ。なんのためかというと、やはり、須藤にとって、戦争は終わっていなかったからであり、そのまま、作戦を続行させたのだ。電送装置が完成すれば、物資や兵員を素早く安全に作戦地へ輸送することができる。
最後に須藤が戻るべき親機はなくなってしまったのだが、逆に言えば、親機、あるいは、子機でも、誰かが、もう一度、完成させれば、この世に出現できるわけだ。そういうオチなのかもしれない。
不思議なのは明子の存在だ。最初の被害者の塚本のアパートに住んでいて、芝浦の倉庫地帯をたまたま歩いていて、さらに、電送装置を冷却するための機械を製作する会社に勤めていて、小谷牧場にメンテナンスのために訪れている。一連の事件と妙に関わってくる。おそらく、もっと、関わることになっていたが、収拾がつかなくなり、途中で筋としては放棄したのかもしれない。
この映画に出てくる軍国キャバレー大本営だが、ほかの映画にも、軍国酒場には、軍国酒場さくら兵団、森繁久彌の社長太平記には海軍キャバレー大和が出てくる。当時、あの手のキャバレーは一般的だったのかも。
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