真田ピロシキ

スウィート ヒアアフターの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

スウィート ヒアアフター(1997年製作の映画)
3.3
VHSの頃に見てよく分からなかった映画。この歳になれば分かるかなと思って再挑戦したが果たして。

スクールバスの転落事故で多数の犠牲者を出したカナダの田舎町に弁護士スティーブンスがやってくる。遺族に対して集団訴訟を持ちかけるスティーブンスは劇中で引用されるハーメルンの笛吹男を想起させられる。この弁護士が遺族を扇動するのは金のためもあるが麻薬中毒の娘がいて娘を失ったと感じている自分を遺族と重ね合わせているのだろう。笛吹男は約束を違えた町の住人に対してだったが彼らの怒りの矛先は何だろうか。不条理な運命という曖昧なものか。スティーブンスはもちろん、遺族にしたって具体的に拳を振り上げる相手がおらずバス会社なのか学校なのかとそれっぽい相手を探す姿は先行きが危うい。

結果としてこの訴訟は1人生き残った少女ニコールの嘘によって終わりを告げる。この小さな町は誰かしらが秘密や問題を抱えていて人間関係が密接に絡み合っていた。運転手ドロレスの夫が「よそ者の陪審員などに裁かせない。この町には独自のしきたりがある」と言ってたように外部からの干渉など金がもらえても必要としなかった。ニコールはそんな町の平穏を守ったのだ。そういう感動的とみなす意見を多く見かけるが、自分はこの町の閉鎖性に恐ろしいものを感じた。殺人でも町ぐるみで隠蔽されてしまいそうで。横溝正史とかツインピークスのような田舎ミステリーと感じられる。町の平和を保つためにドロレスは生贄として追い出されてるのがまた怖い。追い出された本人は満更でもなさそうな顔してるのが更に。

心に残るのは真実も人の心も覆い隠してしまう雪景色。気温と同時に薄ら寒さも感じられた映画だった。