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イン・アブセンティアのBenitoのレビュー・感想・評価

イン・アブセンティア(2000年製作の映画)
3.6
【 精神病院の最上階の部屋から… 】

クエイ兄弟がBBCから委託され製作した短編。ドイツの現代音楽の作曲家カールハインツ・シュトックハウゼンとのコラボレーション。映像化の背景を知ると作品の意味が驚くほどよく判る作品。

クリストファー・ノーランが選んだクエイ兄弟のベスト3のひとつとされている。

この映画は「精神病院から生きて夫に手紙を書いたE.H. 」に捧げられている。これが意味するのは、1996-97年にロンドンのサウス・バンク地区にある美術館ヘイワード・ギャラリーで開催された「芸術と精神病」と呼ばれる展覧会に出展された精神病院の女性患者によって描かれた「EH」という作品ベースになっていて'EH'とはエマ・ホーク(1878年-1928)という早発性認知症だった患者の事。彼女が夫に宛てて書いた手紙の数々は、すごく文章が乱れていて、元の手紙の上に何度も何度も上書きされ、それが黒鉛でぼやけたイメージになるまで書き続けていたという… その世界観が映像化されているのだと思う。

あらすじを要約すると…
精神病院の最上階の部屋にひとり座っている女性。紙に何かを書いたり、鉛筆を削ったり、繰り返している。何度も鉛筆の先が折れてしまう。彼女は折れてしまった芯の先を窓の外の敷居の上に何個も並べていく、とお話というよりEHの作品か発想を拡げた映像化、イメージの連続なんだと思う。

そのイメージとは鉛筆、鉛筆削り、手紙、黒く汚れた爪、折れた鉛筆の芯、窓を照らす不穏な照明、なんだかSFのようにも感じるオブジェが映り、モノクロの世界が続く。独特なクエイ兄弟ワールド。


ちなみに劇伴のカールハインツ・シュトックハウゼンの曲「Zwei Paare」(二組のカップル)は、もともと 1991 年にオペラ「フライターク・アウス・リヒト」のために作曲された電子音楽作品で、本作でも映像にマッチしていてインダストリアルな世界の中に苦しみやら焦燥感やらも漂っていてこれも独特。


<参考>
ノーランが選んだクエイの3作品
 「IN ABSENTIA」(2000 年)
 「THE COMB」(1991年)
 「ストリート・オブ・クロコダイル」(1986年)
この3本は2015 年 8月 19日にニューヨークのフィルム フォーラム劇場でノーランの「Quay」が初公開された時に同時上映されていた。
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