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ゆきゆきて、神軍のgenarowlandsのレビュー・感想・評価

ゆきゆきて、神軍(1987年製作の映画)
5.0
戦争の後遺症で一生苦しんだ父と一緒に観たら何と言っただろうかとまず思いました。動かせない脚で怒りながら地団駄踏むような気がします。奥崎さんが父に見えてきました。世間体は常識的で慎ましやかだったけれど、はらわたはまるで奥崎さんのように煮えくり返っていて、真の敵が誰だったのかを日常的に喚いていました。戦争は終わらず、一生戦争を背負っていた人たちがまだいた時代です。だから、戦争を知らない私は、戦争を言葉では語れなかった父の代わりに奥崎さんから学ばせてもらったと思いました。

「野火」や「軍旗はためく下に」と同じテーマだとは思いもしませんでした。

復員しても父は日常に戻れず、庭で暮らし、蛇や蛙を捕って食べるので、一時身を寄せていた親戚宅がほとほと困ったという話を聞いたことがあります。

観ていて涙が出てきました。
終わらない戦争。一生背負っていく罪。

狂っていても、れっきとした反戦です。ただ、狂っているようには見えませんでした。
日常に戻るのをやめ、戦争の狂気を忘れるのをやめた人なのです。
非日常を日常の中で再現していく。

戦争を知らない、日常の中にいる私には、奥崎さんの尋問によって明るみになっていく戦争の狂気が、どんな<感動的な>戦争映画より、より<戦争そのもの>でした。


8月の反戦映画月間の2023年の締めに本作を選んでよかったです。
昨年はトラウマになりかかったけれど、今年は無事に完遂できました。
反戦の意図ならば、邦画をまずは観るべきだと思いました。
また、戦争を知らない世代として、戦争映画を作り残してきた先達に感謝します。身近に知る術が少ないのですから。
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