beachboss114

脱走四万キロ/脱走4万キロのbeachboss114のレビュー・感想・評価

5.0
目立ったアクションもないのに手に汗握らせる、隠れた秀作。

そもそも脱走モノと言えば、ドイツの捕虜収容所に囚われた連合軍兵士というのが定番なのに、この映画は全く逆。イギリスの収容所からドイツ兵が脱走するという設定が目新しい。

目新しいどころか、作られたのは「大脱走(63)」や「合言葉は勇気(62)」や「謎の要人悠々逃亡!(60)」よりも先(さすがに「第十七捕虜収容所(53)」よりは後だけど)。

警備はさほど鉄壁でもないし、残虐な鬼軍曹も出てこない。イギリス将校は知的な紳士で、管理は牧歌的だが追跡は執拗で粘り強い、ってところがいかにも英国式。知恵比べとスポーツマンシップが見所。

何度も脱走しては捕まって司令部に連れて来られる主人公は、まるで校長室に呼び出された悪ガキ。校長先生の方も毎回手を焼いているようで、その実、敵ながら憎からず思っているフシがあって微笑ましい。「またコイツか! 今度はどんな手を使いやがった?」みたいな。敵愾心より、好奇心や冒険魂が先行して面白がっているのが、これまた英国ならではの余裕。

捕虜に脱走され、雨の中を泥まみれで捜索しつつも「実地訓練」と割り切るイギリス軍。戦争もスポーツやゲーム感覚で捉えるのがジョンブル魂か。

戦争の悲劇性を匂わせる皮肉な後日談はあるものの、物語はあくまで戦争を舞台にした「鬼ごっこ」として、清々しいエンディングで完結している。
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