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殺人の追憶の教授のレビュー・感想・評価

殺人の追憶(2003年製作の映画)
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本作を鑑賞したタイミングで調べてみると、題材となった「華城連続殺人事件」は2019年、現代のDNA鑑定によってほぼ、犯人は特定された、ということらしい(時効が成立している為、立件はできないらしい)。犯人は本作を「3回観た」と言ってるらしい。どういう気持ちで観たのか興味がある。

本作の製作当時は2004年。当時は「未解決事件」である為、結末がモヤモヤすることは必至なのだが、そのモヤモヤを映画的興奮に仕立てあげてしまうので、さすがポン・ジュノ監督であるし、主演であるソン・ガンホの力量たるや、である。

つまり「事件」そのものが主人公であり、いわゆる「マクガフィン」であり、その解決に向けた「捜査」から物語が大きく浮かび上がる。
姿の見えない犯人は「ホラー」であり、地道な情報収集と、その甲斐もなく次々と殺人が起きてしまうのはサスペンスであり、その出来事に対して起こる人物たちの心の動きは人間ドラマになり、実はストーリーの主軸となるのは「自白強要主義」の操作方法はもはやコメディでもある(一方でポリティカルサスペンスでもある)。

それらを丁寧に織り込みながら混乱させ、捜査にあたる刑事たちを疲弊させ、悲劇を加速させていく作劇が見事。
目まぐるしく展開しているようで、特に大きく進展もなく、一喜一憂していく様。
何より容疑者が浮上するたびに拷問し、真相を捻じ曲げていく正義の暴走。

そしてすぐ近くにいるのに見えないまま、現実だけが取り残されていくラスト。
モヤモヤしながらも、ハッキリと物語が提示されていく見事な演出。
小さな規模で、地味か画面からも豊かなスペクタクルが展開される映画の醍醐味を堪能できる。
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