nt708

上海特急のnt708のネタバレレビュー・内容・結末

上海特急(1932年製作の映画)
3.1

このレビューはネタバレを含みます

「上海リリー」と呼ばれる魅惑な女性。彼女を愛し、彼女から愛されるイギリス人少尉のハーヴェイ。ふたりともたまらなく愛し合っているのに、お互いを牽制しあう姿が何とももどかしい。早く繋がってほしい。だけど繋がってほしくない。相反するふたつの感情を観客に同時に持たせる演出の慎ましさには素晴らしいものがあった。それだけに、最後はふたりが結ばれるのではなく、これからも今までと変わらない付かず離れずの関係で終わってほしかった。少尉の独りよがりの振る舞いからあの結末に持っていくのは、いささか軽薄で残念としか言いようがない。

一方で本作を恋愛映画ではなく、ミステリー映画として観ると学ぶべきポイントがいくつも詰まっている。例えば、開始10分足らずで今回の事件に巻き込まれる人たちのバックグラウンド(外見、性格、上海に行く理由など)と関係性を見せることによって、本作の主役たちがそろっていく。主役がそろったと思えば、列車は駅を離れ、主役たちの関係性に変化が生まれる。その変化とともに、これから起こる事件を連想させるような会話や出来事が明らかになっていく。そして、映画が真ん中に差し掛かったころ、「あの事件」が起こる。といった具合に、今でこそ当たり前になった映画の骨組みを余すところなく使いこなしているところに本作が映画として高い価値を持っている理由があるように思う。

したがって、映画全体の評価は五分五分といったところだろうか。ラブロマンスとしてどれくらい面白いかは少々疑問だが、ミステリーとしてはなかなか面白かった。これが90年も前の映画というのがとても信じられない。
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