きゅうげん

史上最大の作戦のきゅうげんのレビュー・感想・評価

史上最大の作戦(1962年製作の映画)
4.7
「あいつは死んで、おれは動けず、お前は迷ってる。戦争ってのはそんなものだ」
第二次世界大戦の戦局を変えた1944年6月6日・通称D-Dayを、ジョン・ウェイン率いる降下部隊やロバート・ミッチャム指揮する上陸部隊、帯同する自由フランス軍や占領地内陸部のレジスタンス、そしてノルマンディーとベルリンとの間で苦悩するドイツ将校たちと、群像劇で描く超大作の大傑作。


水際作戦を命じるロンメルの「相手にとっても我々にとっても、いちばん長い日になる」というセリフ→タイトル(ジャーン!)で、掴みはバッチリ。
地理条件や天候状況などから作戦の是非に敵も味方も疑心暗鬼になる序盤では、子供が生まれたり同期を亡くしたり離婚直後だったり、兵隊さんたちの悲喜交々なドラマがいい味を出してます。
情緒ってのはこれくらいにしておくのが粋ってものですね。

そして始まる作戦の凄惨さ。
サント=メール=エグリーズ近郊への降下作戦は、尖塔に引っかかった兵士が足元で仲間の殺されてゆくのを眺めるしかない……という地獄絵図ののち、落下傘のため吊るされるように残る死体の数々というムゴすぎる画に。
そしてウイストレアム市街戦は砲撃の嵐。カジノに陣取るドイツ軍の機銃掃射&砲撃vsホテルに乗り込む自由フランス軍の戦車という乱打戦になり、建造物ガチ破壊というえげつない撮影も相まって壮絶。銃撃戦の最中に突然登場する修道尼看護団という画的な異形さも衝撃的。
さらにやっぱり沿岸部の上陸作戦。揚陸艇を出たら海でも浜でも丘でも即死という中、死ぬ気で攻略したトーチカがもぬけの殻だったというやるせなさ。そのように遅々として進まない作戦だったものの、遂に堡塁を爆破し連合軍がワーッと駆け上がってゆく終盤のショットは壮観です。
(降下部隊も上陸部隊も攻めあぐねる場面が多いため、ジョン・ウェインもロバート・ミッチャムも優秀そうに見えませんが、まぁご愛嬌……)

ドイツ軍サイドも良いですね。
一面的なヴィラン化に堕することなく、良識的で客観的な矜持ある将校の苦悩や諦念を描くことで、ヒトラーやナチズムの愚かさをかえってより浮かび上がらせる形になってます。
クルト・ユルゲンスが戦車の配備を打診するも総統閣下はご就寝中だと一蹴されたとき、「いま歴史が変わった、我々は負ける。こんな馬鹿みたいな理由で」と悟るシーンはなかなか。
自由フランス軍サイドも少ないながら印象深く、艦砲射撃直前の演説は端的ながらも情熱的で、いざ砲撃がはじまった時の、地元フランス人お爺ちゃんの爆撃されながら歓喜する泣き笑いっぷりも素晴らしいです。


ところでノルマンディー上陸作戦の映画といえば、やっぱり『プライベート・ライアン』ですが、いま改めて観るとスピルバーグは本作をかなり意識していたことがわかります。
残酷すぎる上陸作戦はもちろん、戦車の登場する市街戦や要衝である橋をめぐる攻防戦など、バトルフィールドの数々やその具体的な作戦展開など、本作をオマージュしつつツイストさせた感じがあり、裏返しの対応関係があるような印象です。
まぁそりゃ同じ戦争を題材に描いているワケですが。

あと、後半戦で急に登場するスコットランド兵の凸凹コンビのデカい方、まさかの無名時代のショーン・コネリーでビックリ。くわえてコーヒー運びのドイツ兵がゴールドフィンガーことゲルト・フレーベでまたビックリ。
まさか007映画の主役と悪役を、こんなところで観られるなんて。
アイゼンハワーもそっくりすぎてさらにビックリ。なんでも役者がいなかったため、似ている舞台美術の方に演じてもらったとか。


個人的な好印象の理由は、アメリカ側・イギリス側・ドイツ側・フランス側と(戦争としての勝敗はあれど)、お互いがお互いをリスペクトしフラットに作品を構築している、その製作姿勢にもあります。
それぞれの国の人がそれぞれの母国語を喋ってるのもいいですね(この仕様は国際版だけらしいですが)。
今となってはのほほんとした戦争アクションですが、社運をかけた大作映画ということもあって、目白押しのスター俳優やガチ戦闘ガチ爆破の撮影など、贅沢すぎてもうお腹いっぱい。
ケーキくれたしプレゼントもあったしね。