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ヴァンダの部屋のKSatのレビュー・感想・評価

ヴァンダの部屋(2000年製作の映画)
3.3
延々と続く咳、ガミガミと響く怒鳴り声に満ちた、この上なく不健康な映像詩。

いや、詩ではない。むしろ、画だ。とにかく、どうやって撮ったのかという鮮烈な明暗は、カラヴァッジオやベラスケス、ムリーリョなどの17世紀の巨匠たちの絵画を思わせる。
こう書くと、何を高尚な、と思うだろうが、よくよく考えれば、彼らが描いたものは、必ずしも「高尚な」モチーフばかりではなかった。カラヴァッジオが描く聖人や聖家族はまるでそうは見えない生々しさがあるし、ベラスケスやムリーリョがドラマチカルな光と影で映し出したのは、水売りの老人の肌の質感や乞食の少年の汚れた足だ。高尚そうな表現で、社会の下層を映し出す、という意味では、この映画は彼らの絵画の本質を受け継いでいるのではないか。

ストローブ=ユイレの映画はまだ数本しか観ていないが、なるほど、ペドロ・コスタはどことなく彼らの映画の影響下にある気もしないでもない。
しかし、やはり記録としての側面もあるからか、3時間もあるとどうしても冗長なのは否めない。彼らの映画にあるようなある種の軽快さは実は希薄で、後半はともすると、我慢大会である。
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