このレビューはネタバレを含みます
リバイバル鑑賞したが最高オブ最高。
乾いた空気感、カーペンターの耳に残るテーマ、ソリッドな編集、ブラックユーモアなど低予算ながらほぼ完ぺきな一作
以下、個人的解釈
広告に「買え」「従え」などというメッセージがこめられ、政治家や金持ち、権力側の人間は弱者を同じ人間と思っていない。
これを「根も葉もない話だ」と笑える人はいないのでは。
本作が作られた時、カーペンターは当時大統領だったロナルド・レーガンの政策を批判する意図があった。
レーガンは強いアメリカを取り戻そうと税金を増やし、軍事を増強し、「レーガノミクス」という経済政策を打ち出したが
、貧富の差を拡大させる結果となってしまう。
そんな中で一部の若者がうまく立ち回り金回りが良くなっていき、ヤッピーと呼ばれる自分さえよければいいと他人のことを歯牙にもかけない冷酷な人間が増えていく。
対するカーペンターは1948年生まれでベトナム戦争に反対し、人種平等、男女格差撤廃を訴え理想を追求してきた世代。
カーペンターにはレーガン政権を牛耳る人間たち、その甘い汁を吸う連中は地球を侵略しようとしているエイリアンに見えたんだろう。
本作がさらに恐ろしいのは自分の私利私欲のために異星人側に寝返っている人間が多数出てくること。
ネイダたちと同じホームレスでくすぶっていた男まで異星人側についてしまう。
自分が弱い立場のときは不公平な社会に文句を言っていたのに、支配側に回れば全力でそれを謳歌してしまう人間がいる。
そしてそんな連中が広告や表現物に込めて贈るメッセージは「従え」「眠っていろ」「逆らうな」等の言葉。
支配層は熱烈に支持されたがっているわけではなく、ただ大衆が半分諦めて無関心でいてくれればそれが一番都合いい。
選挙の投票率が低いほうが政治家としては得というのと一緒。
権力者だけでなく、搾取されている現状に気づいていない大衆たちにも痛烈な風刺を浴びせているのも本作の特徴。
大体の場合「あなた方は洗脳されている!」という話だと、「あなたは特殊なもので洗脳されているから外してあげよう」という発想になるけど、本作では「あなたの洗脳を解くには特殊なサングラスぐらいの物がないとダメだ」と言っている。
もうみんな手遅れなくらい洗脳されている。
人の固定観念を変えるのはとても難しい。
その難しさを象徴しているのが、フランクがネイダにサングラスをかけろと言われて拒否し延々6分くらい殴り合うシーン。
これは「人の固定観念を変えるというのは6分以上殴り合うくらい大変だし、それくらいの痛みを伴うものだ」ということを表してる。
終盤はネイダと2人だけで(2人とも命を落とすとは言え)反逆が成功してしまい、正直「え?こんな簡単にうまくいくの?」と思うけど、これもカーペンターの皮肉だと思う。
「映画だからこんな簡単にひっくり返してやったけど現実は違うぞ」「いざ本気になればこれくらい出来るのに、お前らはやらないよな」というメッセージを感じた。
もう一つ思ったことがある。
本作を見るに付け「俺たちを騙していい思いをしている連中がいる。真実に気づいているのは俺たちだけで、周りの連中は眠ったままだ」というメッセージはどこの国のどんな人でも想う可能性があると考えさせられる。
人生が上手くいっていない時は他人を僻むものだし、ネットには様々な陰謀論が転がっている時代。
この映画でも支配層が異星人だらけだと気づいたネイダが「そんなことだろうと思ってたぜ」と笑うシーンがある。ネイダも「自分は正しいのに世の中は悪いやつらが支配している」という考えをもともと持っていたことを表す場面。
ネイダの場合はそれが本当の話だったため作中では正義に見えるけど、しかし目的を達成するまでは周りの人間には彼の行動は妄想にとりつかれた狂人のそれにしか見えないはず。
アメリカのキリスト教原理主義の人たちやネオナチからすれば現代科学や近代合理主義、民主主義人種平等主義で政治や経済を動かしている連中は異星人に見えるだろう。
オウム真理教の人たちも似たような発想だと思う。
人間は自分の考えが一番正しいと思ってしまう。
それに、本作には強権的なメッセージを込めた媒体が出てくるけど、異様なのは「サングラスを通して見ると、どんな広告、出版物、絵画、看板だろうと全てに恐ろしいメッセージが入っている」という点。
おそらく政府をヨイショする本でも非難する本でも同じように「従え」と書かれているだろうし、商品の広告だけでなくマナー啓発の広告などにも「逆らうな」と書かれているはず。日本で例えたら産経新聞にも朝日新聞にも「従え」と書いてあるだろうし自民党も共産党も全員エイリアンだろう。
カーペンターが意図的にそうしたかは不明だが、このような描き方のおかげで、どんな主義主張の人が見ても「自分は騙されているかもしれない」と思ってしまう危険なほど影響力のある作品となっている。
「THEY LIVE.WE SLEEP」この「彼ら」と「私たち」が誰のことを指すかは時代や状況によってどんどん変わっていく。だから何十年たっても本作は古びないだろう。