うにたべたい

世界大戦争のうにたべたいのレビュー・感想・評価

世界大戦争(1961年製作の映画)
4.3
1961年公開の東宝特撮作品。
「連邦国」と「同盟国」で勃発した戦争に巻き込まれる日本の姿を描いた作品です。

この頃、日本特撮映画界隈では"~~大戦争"というタイトルの映画が結構ありました。
1959年に宇宙大戦争、1977年の惑星大戦争、1965年にゴジラシリーズとして怪獣大戦争、そして1968年には大映が妖怪大戦争というタイトルの映画を封切りしています。
そんな並びにある"世界大戦争"というタイトルなので、本作も少年少女向けの特撮映画かと思いましたが、全く毛色の違う作品でした。

太平洋戦争終戦から16年が経過し、日本は戦後の人々の力により都会と呼べる姿へ急速な復興を果たします。
主人公の「田村茂吉」もまた、家族のためにがむしゃらに働いて、幸せな家庭を築くことに成功しました。
一方で、世界は連邦国と同盟国という2つの陣営に別れて、それぞれが核兵器を保持し緊迫した状態にありました。
一触即発な危うい状態の中、日本政府はただひたすらに和平を唱え、戦争回避、和平の道を模索しています。

ストーリーは、茂吉の家族を中心とした市井の人々の生活と、戦争の引き金がまさに引かれようとする世界の動向が並行で流れます。
ただ、一般の人々も、兵士たちも、戦争を望むような描写はなく、それでも戦争が始まってしまう状況と、それに巻き込まれる人々の理不尽が描かれています。
特撮シーンはありますが、タイトル通りの世界戦争を近未来的な新兵器でドンパチやる映画ではなく、内容は基本的にヒューマンドラマで、何も知らない無垢な子供、婚礼を控えた恋人たちが、戦争により文字通り無残に消滅してしまう反戦映画となっています。

はっきりいって後味がめちゃくちゃ悪いです。
この頃の特撮ってだいたい勧善懲悪で、ご都合主義でも解決して大団円になり、輝かしい未来に向けて歩みだすシーンで終幕しますが、本作はとにかく戦争の理不尽さを謳い、訓戒を持って幕を閉じます。
ネビル・シュートの『渚にて』のような虚無感を感じる終わり方で、今で言う"終末もの"にジャンル分けできる一作だと思います。

ただ、単純な破滅ではなく、そこに至る描写が丁寧で、またリアリティーがあります。
公開当時は冷戦の最中で、現実として資本主義側と共産主義側が危険な状態となっていたこともあり、世界が再び戦禍に包まれることは想像しやすい状況だったんだろうなと思います。
現在日本はとりあえず平和ですが、"武力"というものが存在する限り、今もまたその平和は薄氷の上にあるのかもしれないということを思い起こさせてくれる作品でした。