荒野の狼

追想の荒野の狼のレビュー・感想・評価

追想(1956年製作の映画)
4.0
1956年の映画で原題はAnastasiaで、1997年にはアニメで「アナスタシア」の題名でリメイクされている。本作は、家族と離れ離れになった記憶喪失の主人公が、(裕福な)親族探しをする映画として鑑賞するのが適当。こうして割り切って映画を鑑賞した場合には、この作品で2度目のアカデミー主演女優賞を受賞した主演のイングリッド・バーグマンと、同年に「王様と私」でアカデミー主演男優賞を獲得したユル・ブリンナーは、ふたりとも好演(二人のダンスシーンは「王様と私」のものを彷彿とさせる)。本作のハイライトはアナスタシアとヘレン・ヘイズ演じる皇太后(マリア・フョードロヴナ =アレクサンドル3世皇后)の対面シーンで緊張感は高く、感動も大きい。ヘイズは威厳と自愛に満ちた演技で素晴らしい。
ただ、本作は、史実とは完全に切り離す必要がある。鑑賞後には、史実を確認することが必要で、映画の内容が完全にフィクションであることを理解しないと歴史観を誤ることになってしまう。
本作の問題は、歴史の歪曲であり、モデルとなったアナスタシア皇女は死体も発見されており、本作のモデルとなった偽アナスタシアとして最も有名なアンナ・アンダーソンの正体はポーランド人農家の娘フランツィスカ・シャンツコフスカであるDNA鑑定が遺伝学で最も権威ある学術誌に発表されている。なお、皇太后はアンナ・アンダーソンとは会っていない。ロシア史の専門家は本作を見た聴衆が誤った歴史観を持つことの問題をしてきしている。本作ではロシアの皇女と元白軍の将軍を美化することは、ロシア革命に悪いイメージを抱かせることになり、政治的には歓迎・利用する人々も多いのだろうが、歴史的事実は歪曲せずに真実を伝える必要がある。
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