しゃにむ

卒業のしゃにむのレビュー・感想・評価

卒業(1967年製作の映画)
4.3
「流されるのは快適だから…」

何をするでもなく、真昼間からぷかぷかプールに浮きながら大人たちにそう言い放ったダスティン・ホフマンが印象的でした。寝そべる彼の姿に自分を重ねてみてもあまり違和感がありませんでした。なんだか気持ちの悪い焦燥感…自分はいったい何やってんだろう…普段は不問にしている疑問に目が行きました。決して美化されない生々しい青春を目の当たりにしたような気がします。息苦しくて、生々しくて、すごく心細くなりました。

「今から君は大人です」
「はい、そうですか」

とはなかなかいきません。
小学生から中学生になった時の周りが別世界に見える不安感。中学生から高校生になった時に微かに視界にちらつく将来のふた文字。高校生から大学生になる時のどんよりした倦怠感…徐々に緊張感は鈍くなり、焦燥感は最後の最後になって自分を急かしに来ます。

責任感から距離を取れる学生身分はとても快適です。ぬるま湯です。なかなか出れない。精神的に未熟です。巣立てない。社会に出て揉まれて精神的に成熟します。今まで成長を怠ってきたら成長が億劫です。冬場にぬくぬくした布団から出たくない。あと5分…あと5分…ずるずるとその場に留まり続けてなかなか卒業が、スタートが出来ません。

美しい作品なんだろうって先入観を持っていましたが、実際は不倫で堕ちた、ぷう太郎のダメな若者が刹那的な感情に動かされ、突発的にな行動に出ます。若気の至り…かな。

終始憂い顏のダスティン・ホフマンが生臭くて、素晴らしかったです。その時しか無い若さを見事にフィルムに焼き付けました。まさに永遠の青春映画だと思います。

わかんない、わかんない、わかんない、心の無言の悲痛な叫びが聞こえてくるようでした。リアルの人生は抑揚がなくてイライラすることがあります。ドラマを、必然を、ヒントを全然感じません。自分で決めろ。だから、自分で決めたんだよ。でも、これでいいのかな…ヒントは無しですか。仕事を、家庭を、持っている普通の人が遠く離れて感じられます。息苦しくて心細いです。

当たり前だけど卒業はゴールではなくスタートです。合ってるとか合ってないとか考えてる場合ではない。そんな事は、死ぬ前にじっくりと考えてみたらいい。スタートしなくては。どんな形でもいいから自分の足で歩まなければいけない。若気の至りでも、不幸な結末しか見えなくてもスタート出来たら大人…なのかな。今はあまりまとまった答えが出ません。いずれまた観たいです。
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