こなつ

浮き雲のこなつのレビュー・感想・評価

浮き雲(1996年製作の映画)
4.0
フィンランドを代表するアキ・カウリスマキ監督の作品を初めて鑑賞。皆さんのレビューで気になっていたが、今まで鑑賞する機会がなかった。

何から鑑賞しようかと悩んだが、「敗者三部作」というカテゴリーの第1作目を選ぶ。1996年のこの作品は、若くはない夫婦が職を失い、再生していくという物語。

舞台はヘルシンキ。ラウリ(カリ・ヴァーナネン)とイロナ(カティ・オウティネン)は、夫婦共稼ぎで慎ましやかな生活を送っている。夫のラウリは市電の運転手、妻のイロナは名門レストランの給仕長をしていた。だがある日突然夫婦は揃って失業してしまう。二人は何とか再就職にこじつけるも、夫は健康診断に引っかかり内定を取り消され、妻は勤め先の食堂でタダ働きをさせられるという始末。雇われて生きることを諦めた夫婦は、新しいお店を出そうと資金を捻出するために、一か八かのギャンブルに賭けるがそれも失敗する。

社会の底辺に属する労働者や失業者を主人公にして、踏みにじらる人間性とその回復を描く作品を多く出しているというアキ・カウリスマキ監督。今でこそ「世界幸福度ランキング」で5年連続第1位になるほど豊かなフィンランドも、当時は他の国と同様深刻な不況に喘いでいた様子が伝わる。その時代のフィンランドの庶民的な風俗や風景も楽しめた。

モノクロではないけれど彩度を抑えたような無機質な色彩、台詞が少ない上に表情にも乏しく、ただ庶民の暮らしぶりを静かにカメラが追って行く。運はないがしっかり者の妻イロナと優しいけど頼りない夫ラウリ。不運続きで投げやりになったり、悪態のひとつも付きそうな厳しい状況の中、必死さや切迫感があまり感じられない。二人とも愛想がなく淡々としているが、決して人生を諦めている訳ではないのだ。あっさりと受け流すというか、ずっしりと構えているというか、絶望を撥ねつけるしたたかさみたいなものを感じる。

一貫して無表情な妻レオナだけど冷たいと言うわけではない。今、出来ることをやろうとする前向きな姿が頼もしい。夫ラウリはギャンブルに全財産をつぎ込む軽率さはあるけれど、何か憎めないキャラで妻を心底思っている。静かでのんびりとした二人だが、メンタルのタフさで「人生、何とかなる」と思わせる生き様が健気で心を打つし、淡々とした物語は何とも心地良かった。

以前イロナが勤めていたレストランのオーナーに偶然出会い、援助して貰って二人の店を出すことになった夫婦。前のレストランでイロナが一緒に働いていたスタッフを集めて一歩を踏み出す。この先何があってもこの夫婦なら大丈夫と思わせるラスト。
辛いことがあっても、夫婦の強い絆があり、前を向く挫けない気持ちがあれば、世知辛い世の中だけど何とか乗り越えられるというそんな思いにさせてくれた。

また好きな監督に巡り会えた。
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