りっく

ヒミズのりっくのレビュー・感想・評価

ヒミズ(2011年製作の映画)
4.2
本作は園子温初の「原作もの」だ。
しかも、普段は皮肉を込めて嬉々として「絶望」を描く彼が、東日本大震災の発生によって、わざわざ原作のラストを改変し「希望」を若者2人に託したのだ。

「3.11」以降、日本は「終わりなき非日常」を迎えている。
住田が求める「普通の生活・日常」は、もはや当たり前のものではない。
本作で映されている世界は、ファンタジーなのか、フィクションなのか、リアルなのか。
個々の演技も、ギャグなのか、シリアスなのか。
日常と非日常が混在した現代だからこそ、本作も奇妙なバランスで進行していく。

演出も密度・熱量・テンションの圧倒的な高さを保ちながら、ノンストップで暴走していく。
まるで2時間全てがクライマックスのような感覚にさえ陥る。
悪く言えば、緩急の全くない演出である。
けれども、今の日本に気が緩む瞬間など存在しない。
放射能が漏れ続け、いつ起こるか分からない地震の脅威に怯える日々。
日常も一瞬で非日常に変わってしまう恐怖を、日本人は目の当たりにしてしまったのだ。

最後に園子温は2人の若者を、未来に向って走らせる。
彼の作品でおなじみの、全力疾走エンディングである。
『夢の中へ』(05)では自我を求めて、『愛のむきだし』(08)では愛を求めて、そして本作では日常を求めて、ひたすら前へと走り続ける。
けれども、本作では「2人で」走っていることに意味がある。
茶沢が住田に語った「結婚・出産・幸福」という将来。
かつては日常的な光景だったものを、2人は「夢」だと表現した。
その「夢」には、被災地や日本の復興への願いも込められているだろう。
今だからこそ作られるべき映画であり、今だからこそ見るべき映画なのは間違いない。
りっく

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