半兵衛

首の半兵衛のレビュー・感想・評価

(1968年製作の映画)
4.2
正義感溢れる弁護士が戦時中起きた取り調べ中の死亡事故に隠蔽の匂いを感じとり真実を暴かんとするというストーリーを、ここまで異様な映画に変貌させてしまった森谷司郎(監督)と橋本忍(脚本)の手腕に驚嘆。そして単なる正義感ではない弁護士という職業にプライドを持ち事件を捜査するためなら違法すれすれの手段も厭わない、狂気と正義と自尊心が混在してクレージーの領域に達している主人公を熱演する小林桂樹の演技の素晴らしさ。そんなキャラクターなのに瞳孔が綺麗なのが『ワイルド7』の川津祐介みたいでヤバイ奴感を増幅させる。

会話劇メインの序盤は展開も平凡なので少し飽きてはくるが、それでも名匠たちとタッグを組み名作を生み出した橋本忍のシナリオは事件の要点や問題点をさりげなく観客に提示して興味をひかせていくのが見事。そして中盤からの、真相を暴くためにどんどん暴走する主人公の行動がヤバいし当初そんな彼に及び腰だった関係者も感化されたかのように捜査に協力していくさまは見てるこちらが背筋がこおってくる。

終盤の「首」をめぐってのドラマも倫理観がぶっ飛んでいて何を信じていいのかわからなくなってきた、シリアスなサスペンスのはずなのにギャグテイストを肝心な場面にぶちこんでくる手法は何なんだ。

あと小林桂樹に協力する大久保正信がもっとぶっ飛んでいて妖精や妖怪みたいな存在になっていたのが怖かった、いくら事情を全部把握していないとはいえあんな常識はずれなことをしたあとで満面の笑みでご飯や酒を飲んでいるのもあれだし電車での警官とのやり取りも赤塚不二夫のギャグみたいで変な笑いが起きた。

頭から取り出した脳が画面に出てきたり、切られた首が空襲で燃えたりとグロい描写が多くてそこはかとなくホラーのテイストも。

でも一番ヤバイのはあのラスト、強すぎる正義は狂気がなければなし得ないのか。
半兵衛

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