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ザ・ブルード/怒りのメタファーのSPNminacoのレビュー・感想・評価

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いきなりの異様なテンションから、心理セラピーのロールプレイングという劇中劇的な仕掛けで意表を突き、早速心理スリラーのジャンルへと誘う。胡散臭いセラピーを行う精神科医、そこで隔離治療中の妻、娘を守ろうとする夫。夫がサイコプラズミック療法のインチキを暴こうとすると、次々と殺される家族。
最初の殺害シーンのカットバックは『サイコ』だし、探偵やミステリー要素はヒッチコックっぽい。だが連続殺人の犯人が登場すると、一気にグロテスクに加速。事件が起きる前から娘の赤いスキー服が重要なメタファーとして印象強かったのだが、そうくるか。赤青黄のブルードたち、冬景色にもこもこ着込んだアノラック姿に着ぐるみ的な気味悪さがある。探偵のすだれ頭もかなり奇怪。ホラー映画に出てくるトンカチは狂気で凶器。ポカポカポカポカ…怖い。
そして、虐待のトラウマを皮膚感覚で提示するのがクローネンバーグ。殺害現場で白い線の人型に情念が湧き、血の痕跡にも恐怖が染み込む。心と身体に刻まれた記憶を種に育った憎悪が放出されるのを、そのまんま形にすればこうなって、それがカタルシスになるのだった。いやいや、子役にこんなことさせちゃダメだろ…って意味でもトラウマ映画。
これを観ると、家族の陰惨なトラウマを容赦なく抉るアリ・アスターって、結構クローネンバーグに近いのでは。
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