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ロシアン・ルーレットのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

ロシアン・ルーレット(2010年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

父親の入院費で家計が逼迫する中、青年ヴィンスはある家で謎めいた儲け話を耳にする。思わず大金を手にできる会場への招待状を盗んだ彼は、その指示通りに森の中の屋敷に到着する。だが彼はそこで自分の浅はかさを後悔することに。そこは17名の参加者のロシアンルーレット対決に、富豪たちが大金を賭ける秘密の賭博場だった…。

描かれるのは貧富の差が開けば、「生命すら簡単に金で買える」という極端な例だ。
ジョージア出身、フランス育ちのゲラ・バブルアニ監督が、自身の長編デビュー作「13/ザメッティ」をハリウッドで豪華キャストを配してリメイクしたスリラーの佳作である。

大概の遊びに飽きた金持ちの心理など、私のような庶民は想像もできないが、「言われる通りにやれば大金が手に入る」というような都市伝説のような話は、貧乏人にとって妙にリアリティがある。
本作のような話の場合、いかに嘘くささを排除して「もしかしたら、こんな事があるのかも」と信じ込ませる事が出来るかが勝負。

その点は良くできていて、特に序盤の「屋敷までの道案内」が良い。
招待状の案内通りに進んでいくと、会場までの道のりや痕跡がそう簡単には辿れないようになっている。
会場が近づくにつれて緊迫感を感じさせると同時に、主催者側がいかに用心深いプロで、この危険なイベントの開催に慣れているかがわかる。
この過程を経ることで、見る者もすっかりこの世界観に引き込まれことになる。

怪しげな屋敷に辿り着いたヴィンスは、ゲームの内容に恐怖する。
しかもヴィンスの持つチケットは賭ける側ではなく、賭けられる側だった。
他人のチケットで紛れ込んだヴィンスは、強制的に参加させられる。
逃げれば、このイベントが外部に漏れるのを恐れる主催者に殺される。
だが、生き残れば自分に賭けられた大金を持って帰ることができる。
どうせ死ぬなら選択肢は後者しか無い。
だが、ゲームの勝敗は全くの運頼みだ。

もはや引き返せなくなったヴィンスは番号「13」のTシャツを着せられ、ロシアンルーレットの円に加わることに。
参加者の中には刑務所から連れてこられた服役囚のパトリック、ギャンブラーのひとりジャスパーに病院から連れ出された兄のロナウドなどが集まっていた。
誰もが金か自由が欲しい「訳アリ」の人間ばかりだ。

第1ラウンドが開始され、参加者は1発だけ弾が込められた拳銃を手にして輪に並び、合図と共に引き金を引く。
最初に倒れたのは3人だったが、極度の緊張感でヴィンスは引き金が引けなかった。
主催側に銃で脅され、何とか引き金を引くが弾は出なかった。
このゲームでもう一つ嫌な事は、誰かを殺す羽目になることだ。
その罪悪感の恐怖に、劇中ただ1人震えることで、ヴィンスは唯一まともな倫理観と神経を持つ「主人公」として光る。

第2ラウンド、第3ラウンドが進むにつて装填される弾の数も1発ずつ増え、次々と参加者が命を落としていく。
生還困難の度合いが増していくのに関わらず、人の命を駒としか思っていないギャンブラーたちはその結果に一喜一憂。
金はあるのだろうが人間として、とんでもないクズばかりだ。

そして迎えた決勝戦。
この時点で生き残ったのはヴィンスやロナウドなど5人。
決勝戦は生き残りの中から抽選で2人を選んで勝負をさせるというルールだ。

ヴィンスとロナウドが抽選で選ばれ、二人は向かい合って銃を頭に突き付ける。
1発目は両者とも空砲だが、2発目でヴィンスはロナウドを撃ち殺して優勝する。
究極のビギナーズラックとも言える結果だが、大金を得たとて人を殺した汚れた金など嬉しいはずもない。

間も無く解放されたヴィンスだが、列車を待つ駅で今度はイベントを追う警察に追われることとなる。
賞金の入ったバッグを駅のゴミ箱に隠したり、中身をすり替えたりして何とか警察の目を逃れ、やっとの思いで賞金を実家に郵送する。

しかし、ヴィンスの運もここまで。
警察が駅から去った後、決勝で兄を殺され、後を追ってきたジャスパーに銃で撃たれる。
ヴィンスは最後の力を振り絞り、実家へ送金した証拠隠滅のため、郵送の控えを胃に飲み込み息絶える。
ジャスパーはバッグの中身がすり替えられているとも知らずに走り去っていく…。

戦略性など通用しない、運任せのロシアンルーレット。
生き残っても警察と復讐者に追われ、緊張感がずっと続く脚本の展開は見事だ。
ハリウッドが映画化を希望し、名のある俳優陣が出演を熱望するのも良く分かる。

アイデアは面白いが、残念なのは「ロシアンルーレット」というゲームのルールに遊びの余地が無く、知恵も戦略も通用しないこと。
強面の参加者や賭けに老練な策士などが出てくるが、所詮は運試しなのでキャラクターが立つ展開になりにくい。
結果、一番目立つのは主人公ではなく、マイケル・シャノン演じる喋りまくるゲームの進行役だ。
序盤の道案内や終盤の逃走劇に演出力はあるだけに、これだけの俳優陣を揃えて活躍の場を与えないのはもったいない。

オリジナルは無名の俳優ばかりだからこそ、誰がどう行動するのか?という部分とゲームの偶然性が重なった面白みがあった。
錚々たる俳優陣がそれぞれ何かやるだろうと思わせて、無駄遣いと思える者もいる。
せめて人物の背景は匂わせるべきだっただろう。

金持ちが貧乏人の命を駒にして大儲けする構図は、登場人物の職業(正体)次第では格差社会への警告にすることもできたはずだが、特にそうした形跡もない。
その辺が思ったより巷での低評価に繋がっているのかも。

「とりあえず家族にお金を送れて良かったね」が救いなのだが、それだけで終わるのは勿体無い役者を揃えた作品である。
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