ぴのした

コーヒー&シガレッツのぴのしたのレビュー・感想・評価

コーヒー&シガレッツ(2003年製作の映画)
3.9
至福の映画体験。ファミレスの隣の席の気になる会話を盗み聞きするような、シュールなコントを見ているかのような。

人は強がって嘘をついたり、昔は仲の良かった友達と環境が変わって分かり合えなくなったり、自分より下だと思ってた人に鼻を明かされて恥ずかしくなったりする。

小説じゃないから彼らの感情の動きははっきりと言葉にはされないんだけど、その小さな心の機微はしっかりと画面ににじみ出てくる。たまらなくキャラクターに可愛らしさや愛おしさを感じる。ひいては、人間って可笑しいなあ、哀しいなあ、愛おしいなあと思わずにいられなくなる。

そういう言外の感情の動きを描くうまさがさすがジャームッシュ。しかもその人物たちの背景や設定さえもちゃんと説明されないので、そこも観客が勝手に想像を膨らませられる面白さがある。冒頭でも言った通り、隣の席の気になる会話を盗み聞きして「もしかしてこういう話なんじゃなかろうか、いや、こうだったら面白い」と妄想するみたいに。

イギー・ポップやビル・マーレイ、ロベルト・ベニーニら名優、名歌手の出演(しかも本人役)も見どころ。代表作『ミステリートレイン』を彷彿とさせる「双子」の回とかも良い。

「コーヒーを飲んで寝ると、猛スピードで夢が見られる。インディ500のレースを車から撮ったみたいに」
「ニコラ・テスラは地球は一つの共鳴伝導体だと言った」

同じセリフを吐けども、決して交わることないストーリー。劇的ではないけど惹き込まれる会話劇。いろいろジャームッシュ見てきたけど伊坂幸太郎ってジャームッシュに影響受けてそうだなと思った。

疲れもあって、最後の回でちょっと寝かけたけど、こういう映画見ながらウトウトと寝落ちして気付いたら死んでたみたいな最期って最高に幸せだろうな。

今は借り住まいでコーヒーメーカーがないのでブラックコーヒーを飲みながら見れなかったのが残念。DVD買って今度はちゃんとコーヒー飲みながら見よう☕️