ぴのした

フェイブルマンズのぴのしたのレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
3.7
スピルバーグの自伝映画なんか絶対面白いやろ!と思って見たが、想像していたのと違った。ポンポさん見ようと思って座ったらマリッジストーリー始まったみたいな。

親が離婚にいたるまでの部分にメインテーマくらいウエイトが置かれていて、見たいのはそれじゃないんだよな感がすごかった。あと単純に長い。

監督個人にとっては家族の話抜きに自分の人生を語れないということなんだろうが、もっと映像への思いとか葛藤に主軸を置いてほしかった。せめて家族の苦労があったからこそ映像で成功できた、みたいに家族の話を語る必要性を感じられたらよかった。

序盤の列車のシーンにこだわるのとか、後半のいじめっ子との対峙とかはすごくよかったので、そっちをもっと掘り下げてほしかったな…

「なぜ息子はあんなに衝突にこだわるのかしら…」と言われていたスピルバーグの出世作が「激突!」なのも面白い。

いじめっ子が自分をカッコよく映した映像を見せられて悲しむシーンは圧巻だった。

「真実だけを切り取っても、映像は時に虚構になり、果ては凶器になりえる」という映像という媒体の本質を突いていて、エンタメ映画(=フィクション)の帝王であるスピルバーグが、映像の虚構性やそれがはらむ凶暴さをずっと胸の内に抱えてきたという事実に唸らされる。

ただ、いじめっ子側の掘り下げがない中で急にあのシーンに来るのでイマイチ乗れなかった。「ローガンは努力して万能スポーツマンになったのに、天才のように描かれてこんなのは自分じゃないと思った」のであれば彼のこれまでの努力や心理描写や葛藤を描いたほうが分かりやすい。

そうしないのはなぜか。監督が見たり経験した事実をありのままを描くことにこだわっているからなのかだろうか。分かりやすいエンタメ映画、という路線を放棄しているようにも思える。

それは彼がこれまで常に観客第一でフィクション(=虚構)を作り続けてきたことに対する、真実性への一種の贖罪なのかもしれない、とぼんやり思った。