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ヨーロッパのbutasuのネタバレレビュー・内容・結末

ヨーロッパ(1991年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

「ヨーロッパ三部作」鑑賞完了。本作が一番好き。尖ってはいたが映画としては未熟だった前二作をブラッシュアップしたような出来栄え。それでもまだ映画としては未熟ではあるし、十分尖っているのだが。しかし全体としてまとまっておりかなり観やすい作品になっているのは間違いない。

とにかく映像の素晴らしさ。白黒映像の要所に差し込まれるカラーの使い方が凄い。血が赤いというのはありがちではあるものの、風呂場のシーンで自殺する男が剃刀で身体を傷つけていくたび赤が増えていき、最終的にはドアの隙間から真っ赤に染まった水が流れてくる映像の迫力たるや。自殺と同タイミングで主人公たちが行為に没頭しているのが、自殺した男が息子にプレゼントした"鉄道模型の上"であるというのもエグい。急に子供が暗殺を実行したときの赤もインパクトがあった。

カメラワークも常に工夫が凝らされており独特で観ていて飽きないし、スクリーン・プロセスの多用も面白かったなぁ。ちょっと俯瞰的というか、一歩引いた目線でこの世界を眺めている気になるし、主人公自身もまた少し上の空であるという現実感の無さの表現となっており、上手い。

ストーリーは前二作に比べると普通にまとまっており、随所に相変わらずの何とも言えないユーモアも見られて面白い。終盤、「妻を人質にとられ決死の思いで列車に爆弾を仕掛けて逃げる→直前で思い直し走って列車に飛び乗って止める→実は妻こそが裏切り者である人狼だった」という怒涛のストーリー展開と同時進行で、すっと車掌認定の抜き打ち試験が進行されるおかしさ。主人公は全くそれどころではないのに、試験官たちは全く意に介さず強引に試験を進めようとしてくる。そうしてストレスがピークに達した主人公がヤケクソになって銃を手にしブチギレるシーンの爽快感が最高。

そして何よりナレーションの使い方の凄さ。冒頭からナレーションで始まる今作では、劇中で何度も催眠術のように使用される。「10数えるとあなたはヨーロッパにいる」「3数えると1ヶ月後だ」のように、便利な場面転換として。この手法に馴染み違和感を覚えなくなった頃、ラストで唐突に「10数えたらあなたは死ぬ」のナレーション。そして始まる酷くゆっくりとした10までのカウント。死の決定とそれが逃れられない運命であることを示し、その過程をじわじわとただ数えていくこのやり方。「あぁラース・フォン・トリアーだ!」と安堵してしまうレベルでラース・フォン・トリアーだった。最悪で最高。
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