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キャピタリズム マネーは踊るのGreenTのレビュー・感想・評価

3.5
私がそもそもアメリカにすごく憧れたのは、みんな自由で生き生きしていて、夢がある!って感じたからです。私の目には「それに比べて日本人は、縮こまって周りに合わせているだけで自分の生きたいように生きられない!」と映っていたのですが、この映画を観るとそれは幻想だったのだなあと良く分かります。

マイケル・ムーアの子供の頃のファミリー・ビデオが挿入されているのですが、彼のお父さんはGMの工場で働き、一軒家を買い、奥さんは専業主婦。マイケルはカソリック・スクールに通い、クリスマスにはたくさんのプレゼントを貰い、この時代でファミリー・ビデオを撮っているのですから、むろんビデオカメラを持っていた。

労働者たちは労働組合に入っていて、年金も保障され、みんな豊かだった。

これが、私が見ていたアメリカだったんだなあ~って思いました。

しかしマイケル・ムーアは、自分の子供時代が恵まれていたのは、戦争でドイツや日本がボコボコにされ、戦後の復興に苦労していたからだったんだ、と説明します。ドイツと日本が立ち直ると、彼らはアメ車よりずっと性能のいい車を作り、アメ車は市場から追いやられる。するとGMは、価格競争に勝つために、利益を上げていた工場をマイケル・ムーアの故郷、ミシガンのフリントから撤退し、賃金の安い国に移した。

つまり、私が見ていた豊かなアメリカは、日本の犠牲の上に成り立っていたし、日本人が縮こまっていたのも、個人主義になるほど豊かではなかったってだけなんだなあと気が付きました。

マイケル・ムーアは、カソリックの人なので、キリスト教の偉い牧師さんとかに、「資本主義って、キリスト教の教えに背いてないですか?」って質問を投げかけたりしています。キリスト教は、貧しい人たちを救うって宗教なのに、キリスト教徒の多いアメリカがこれでいいのか?と。マイケルがインタビューした牧師さんたちは「資本主義は悪魔の所業だ」と言う。

私はそこまでは思ってないですけど、資本主義には限界があるなあと思っています。マイケル・ムーアの子供時代の話がとても的を得ていて、アメリカが繁栄したのは、実は競争相手がいなかったからだ、ということが分かる。資本主義は「自由競争だ」としていたのは、アメリカが絶対勝てる、って前提があったからなんだなあと。

この映画は2009年公開なので、リーマンショックの直後なんですよね。人々が家を取られたり、職を失ったり、また大企業が従業員に生命保険を密かにかけて、病死すると会社がミリオンの金を受け取れるシステムなど、ウォールマートだったかな?がやっていたことがわかり、ちょっとこの辺もうめちゃくちゃ恐ろしく、悲しくなります。

こういう企業の、全く倫理のない金儲け主義をひどい、とは思うんですけど、私はこれは、今やアメリカの企業は、正攻法では利益を上げられなくなってきていて、それでこういう風になって来ちゃったんじゃないかなあと思いました。

あと、これは映画とは関係ない私の意見なんですけど、人口が増えて、みんなが豊かになるほどの金や資源がないのかな、と。まあ、確かに強欲な人が独り占めしていて、それを上手く分配できればみんな生活が保障されるくらいのことはできるのかもしれませんが。

つまり、物を売る人が少なくて、買う人がたくさんいて、しかも人口がバランス取れている状態では、資本主義は有効だったのでしょうが、今のように売る人は多い、買う人は増えない、だって人口は増えていても、お金のない人が増えているだけだから、という状況では、資本主義は立ちいかなくなってきているのでは。

マイケル・ムーアは社会主義を推奨しているようですね。私も、「一つの仕事を真面目にしていれば、最低でも生活が保障される社会」というのは賛成できます。今は仕事2つも3つもしないと生活できないような人がいるし、それは解決すべきだと思う。

なんだけど、保障するって言うことは、一生懸命働いても、税金で取られる分が増えるってことだし、最低限の生活は保障されているとなると「なにもしない」とか、「どーせやっても・・・」という人が出てくるのは避けられないと思うし、人口過多となると、支えなければならない人が多過ぎるのではないか。

私は資本主義はそのままに、最低賃金を引き上げることが重要だと思うんですよね~。だっておかしいじゃないですか。アマゾンって、すっごい儲かっていて、CEOがものすごい資産を持っているのに、アマゾンの倉庫で働く人や配達員は、仕事を2個も3個も持たないとやっていけないくらいの給料しかもらっていないなんて。「アマゾンの倉庫で働くと、普通の会社員やってるよりお金貰えるよ!」ってことにならなくちゃいけないと思うんですよ。

映画の後半に、そういう経営をしている企業が出てきます。パン屋さんだったかな?従業員が均等に会社の株を持っていて、経営者だけがたくさん株を持っているわけではない。会社の色々な決定事は、社員全員投票する。サラリーが6万5千ドルだったかなあ?これって結構いい給料ですよ。ここの社長さんは、「一人で何台も車を持つような生活しなくてもいいでしょ?」って言う人で、こういう人ばっかりだったら世の中幸せだよなあって思います。でもこういう人が実在するんだ、って知れただけでも、映画の前半の落ち込みから救われる思いでした。

マイケル・ムーアの結論は、金を儲けることが目的になってしまっているウォール・ストリート=銀行=資産家がアメリカの政府と癒着し納税者たちを搾取している、それと戦うんだ!と言うことで、ウォール・ストリートでお得意のパフォーマンスをします。ナレーションで、「俺はこんな国に住みたくない。しかし、出ていく気はない」と宣言します。原題が "Capitalism: A Love Story" となっているのは、それでもやっぱりアメリカが好き、だからアメリカを良い国にしたいんだ、って思っているんだと思います。

コロナ不況が起こっても、「もう通用しなくなった資本主義」を見直したりはしないんでしょうかね?なんか、リーマンショックみたいな経済危機が起こると、お金持ちは影響を受けないばかりか、余計儲かる仕組みになっているって示唆されていた気がするんです。これってフェアじゃない気がするんだけど、自然界は弱肉強食、だから人間も、色んな歴史を重ねてきても、結局は弱い者を切り捨てていくのが本能なのでしょうかね。
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