三畳

巴里のアメリカ人の三畳のレビュー・感想・評価

巴里のアメリカ人(1951年製作の映画)
3.0
昔の人が映画に求めてたものって、現実味なんかない突き抜けた夢なんだなって思った。
もちろんこの時代にも苦々しい作品はいっぱいあるけど、その中でこの作品が愛されてるということは、

"自分も美人と恋して、その人に婚約者がいても、コロリと寝返ってくれるかもしれない"

"自分も街角で細々と絵を描いていたら、お金持ちのマダムに惚れられて、アトリエや人脈をこしらえて無償でくれるかもしれない"
という夢が見たいんだね。

だって、都合の悪いことへの代償も説明もなんにもないまま全部片付く!

残り15分、スケッチに奥行きが生まれるとそこは舞台のような不思議空間へと早変わり、圧巻の抽象的ミュージカルでこのまま逃げ切っちゃうのかな?!

と思いきや、ラスト1分で夢から覚め、現実でもまさかのハッピーエンド、こんなの妄想オチでしょ!

サレタガワの彼氏、アンリが不憫すぎる。こういうポジションて普通少しくらい悪役として描かれるものなのに、この人なんの落ち度もないから。
訳ありのリズを匿ってくれていたし、芸術の才能もお偉いさんから見初められて将来有望だったし、出会ったばかりのジェリーに真摯に恋のアドバイスをしてくれた良い人だよ。

全てが、不倫する人たちのお花畑ビジョンって感じだった。
ダンスシーンでコミカルな振りがあったけど猿の真似か?
ジェリーはリズがフリーじゃなかったと知らなかったとしても、リズおまいは被害者ヅラすな!
女性が利発そうなポーズだけして優柔不断ですらない、考える頭のない生き物として描かれてる映画は違和感ある。
結婚前に引き返したからまあセーフかな?

でもこの映画で一番失望したのは、リズに婚約者がいると分かった途端、それまで疎ましがっていたスポンサーマダムの存在を"こっちも可愛がってくれてる人がいるんで"と見栄の切り札 心の逃げ道に使っちゃったこと!失礼でしょ!
マダムもちょっと図々しい変な人なだけにこれはこれで不憫になった。

ピロウズの「巴里の女性マリー」的な世界観と重ねて観ていたので台無しに。

ピアノの人が1人オーケストラで喝采を浴びる妄想シーンの凄まじさからしても、本当は夢が叶わないことの裏付けになってる気がした。部屋で弾いてたTra-la la、いい曲だった。タップダンスはやはり素晴らしい!現実逃避。
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