えむ

ベニスに死すのえむのレビュー・感想・評価

ベニスに死す(1971年製作の映画)
4.0
ここのところ映画に関するドキュメンタリーを観る中で、無性に古い映画を観たい衝動に駆られたところにBS放映があってこれをチョイス。
この映画を観るのは何度目かな…

ストーリーとしては、身体を壊して療養に来た芸術家が美しい少年に出会い、心奪われていくというシンプルなものだけれど、独特の美しさと醜さが絶妙なバランスでミックスされたような作品だと思う。

若く希望と光しか見えない美しい少年と、苦悩し、老いて、闇に飲み込まれそうな大人の男。
少年愛が語られることも多い作品だとは思うけれど、そこに描かれているのは人の持つ光と影の二面性、その狭間でゆれる人の性のような、もっと普遍的なもののような気がする。

タジオは語らない。
でもその分、観る者それぞれの中にあるものが揺さぶられるのではないだろうか。
この作品にはそう言う美しさがある。

芸術の中に精神性を求めるグスタフ、芸術は決して感覚的なものではないと頑なに心を閉ざした彼は、タジオの中に確かに美の神(むしろ女神か)の姿を見てしまった。
感覚で感じてしまった。
それは頑なに守り続けた彼の世界の終焉でもある。

タジオの姿を見ながら壊れてしまった世界から離れる瞬間、彼の精神は救われたのかもしれない。
疫病という「避けがたい病」に侵食されて壊れてしまったベニスから出る人々ように。

今は素晴らしい作品が山のようにあるけど、古い作品て、今のように技術もたくさんはないし、カメラ割りとか演出も今ほどの技法は持ち合わせていない。
だからこその雰囲気の美しさとか「語りすぎない良さ」みたいなものがあるように感じる。
「想像する余地」「感じる余地」があるというか。

私には芸術は「感じる」ものなんだなぁと改めて思わされる作品でもある。
えむ

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