このレビューはネタバレを含みます
ルキノ・ヴィスコンティ監督による超芸術的「おっさんずラブ」
お笑い要素、一切なし。
ストイックなおっさん恋愛物語だ。
そして「おっさんずラブ」みたいなラブコメが好きな人には、全くオススメできないという問題作でもある笑。
なんたって、内容はおっさんが男の子を2時間ストーカーしてるだけ。
そして、その様子をグスタフ・マーラーの交響曲が、切なく演出しているのだから、もはや異常である。
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“そういう笑い方はよせ
他人にそんな笑顔を見せるな
・・・愛している”
芸術や音楽に対して、精神的な志向性を求める、いかにもな雰囲気の老作曲家は、実は恋に奥手なウブボーイ。
少年の後を追っかけ回すだけで、声も掛けられない。
声を掛けた!と思ったら、それは妄想だったという、さっきから一人で何してるんだ状態。
終いには、顔を白塗りし、髪を黒染めし、口紅を塗って、
「若くなりました、これで恋も語れます」などと床屋に言われ、鏡の前でカッコつけている。
しかし、それでも声をかけることができず、ずっと後ろをついて回るだけ。
自分のふがいなさに、夜の街で座り込み、泣きながら笑っている。
本当いい歳して何をやっているんだ。
そしてラスト。
おっさんは、汗で化粧が剥がれ、黒い液体が帽子の隙間から垂れ落ち、海の彼方の届かぬ恋を見つめながら、なんとも惨めな姿で最後を迎えるのだ。
おっさん、ベニスに死す。
対照的に、このラストシーンの少年は、煌めく波を背景に、片腕をあげ、ギリシャ彫刻のような神々しい姿を見せつけるのである。
なんという対比!
美しさと醜さ。
若さと老い。
生と死。素晴らしい!
久しぶりに見てみたが、やはり物凄い。
とんでもない映画だ。
ダーク・ボガードの老いと悲しみに満ちた名演も、最高級。
製作:1971年(伊・仏)
原作:トーマス・マン
監督:ルキノ・ヴィスコンティ(『山猫』『ルートヴィヒ』)
出演:ダーク・ボガード、ビョルン・アンドレセン
受賞:カンヌ国際映画祭25周年記念賞、キネマ旬報ベストテン第1位ほか。