マーチ

ヴァージン・スーサイズのマーチのレビュー・感想・評価

ヴァージン・スーサイズ(1999年製作の映画)
3.2
【レビュー】

《理由が無いことが “理由”》

何にでも簡単に理由を求めちゃいけない。
ましてそれが「死」ともなると尚更。
偶発的なことなんかじゃない、これが思春期の闇。

若くして亡くなった5人姉妹について同級生の男の子たちが回想的に語る特殊な切り口で始まるこの作品は、亡くなった姉妹が送った閉鎖的で息苦しい空想上の青春にスポットライトを当てながら、当時の周りを取り巻く環境に皮肉を込めて描いている。

ソフト且つ瑞々しいタッチで煌びやかな青春の日々を描いている反面、唐突な死の描写で裏側にあるダークな思春期の闇を強烈に抉り、暴き出す。ある少年の希望的観測に微笑んでいたら、(始めから明かされているものの実際にその時がやってくると受け止めきれない)ラストの絶望に面食らう。

近所の人々は彼女たちの「死」に様々な憶測や噂をたてる。テレビのニュースでは適当な理由を付けてレッテルを貼る。
でもそういうことじゃない。あの頃の多感であるが故の苦悩や葛藤、恐れは本人じゃないと分からない。誰もが理由を求めようとするけれど、理由が無いことが“理由”の場合だってあるし、言葉では表せない何かに突き動かされて衝動的な決意から闇に飲み込まれてしまうこともあるはずだ。それは変な価値観や精神論で凝り固まった大人たちには到底理解できるはずないし、同級生であっても“共感”は難しいだろう。本人の問題であり、自分で乗り越えないといけない。だからこそもどかしい。そしてその様なまだ何もかもが脆弱な時期を支えるのが家族であり、恋なのかもしれない。それを妨げられ、友人や恋人、家族に愛を与えるどころか愛を感じることさえ出来なくなってしまった彼女たちの末路に弔いを。

実のところ今作の本質は作中で早々に語られている。セシリアの言う「だって先生は13歳の女の子じゃないもの」という冒頭のセリフ。このセリフが、この映画の全てを既に物語っている。


【p.s.】
ソフィア・コッポラが監督デビュー作にして父に負けず劣らずの演出力を世に知らしめたのがこの作品で、監督の優れた観察眼により女性から見た男性の馬鹿さ加減が作中の男の子たちのキャラクターへ存分に発揮されています。笑
まあでも学生時代の男の子なんて作中通りの馬鹿らしさなので、監督の人間観察力は恐ろしいですね。笑

家庭のことには口を出さず、あまり多くのことには深入りしない父親のボケた感じも面白かったのですが、「もはや監督にとって男のポジションはそこなんですね。」と笑わずには入られませんでした。そういう男性優位社会に対する皮肉の様なものも感じられますし、内容自体も青春の体をとっているとはいえ自殺という社会問題なので、強ち簡単には語れない内容ではあります。

それにしてもキルスティン・ダンストはビッチな役回り多過ぎませんか?!笑


【映画情報】
上映時間:98分
1999年(公開は2000年)/アメリカ🇺🇸
原作:ジェフリー・ユージェニデス
『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』
監督・脚本:ソフィア・コッポラ
製作:フランシス・フォード・コッポラ 他
出演:キルスティン・ダンスト
チェルシー・スウェイン
A・J・クック
ハンナ・ホール
レスリー・ヘイマン
ジェームズ・ウッズ
キャスリーン・ターナー 他
概要:繊細で危うさを秘めた思春期の少女
たちの揺れ動く心情を、巨匠F・F・
コッポラの娘にしてこれが監督デビ
ュー作のソフィア・コッポラが描
く。
マーチ

マーチ